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将棋PRESSBACK NUMBER
「羽生善治さんとベストを尽くして良い作品を」数々の死闘を経て…谷川浩司十七世名人が語る“52歳の羽生将棋”「終盤は全盛時そのまま」
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph byYuki Suenaga
posted2023/02/26 06:02
インタビューに応じてくれた谷川浩司十七世名人。羽生善治九段都の数々のタイトル戦や世代論について、語ってくれた
「将棋界がこれからどうなって行くのか。AIと毎日長時間ずっと向かい合うというのは孤独で厳しい作業です。若いうちはできていても、30代、40代になって同じように継続できるのかどうか。そこは興味があるところですね」
終盤の正確さは全盛時そのままです。本当に素晴らしい
そこを考えると、52歳になった羽生の今年度の充実ぶりはすごい。昨年度、棋士になって初めての負け越しが14勝24敗、勝率.368という考えられない数字だったわけだが、これはAIとの本格的な付き合いを始めたことによる、違和感からくる反動だったのかもしれない。今期は王将リーグを6戦全勝(渡辺明、永瀬拓矢、豊島将之らを粉砕!)して挑戦権を奪い、藤井との七番勝負も現在2勝2敗のタイスコアで、当然のこととして内容も素晴らしい。特に目につくのは、急所で示される、人間にはちょっと選びにくそうなAIの推奨する手をピタリと指してくるところだ。
「私が立ち会いを務めた第2局は、あとで詳しく検証しても羽生さんに疑問手が一つもなかったですし、相当に努力されてAIの感覚をつかんできているなと感じます。本来は若い人たちの土俵である研究勝負にも高いレベルで対応されていますし、終盤の正確さは全盛時そのままです。本当に素晴らしいと思います」
平成で覇権を握った52歳の名棋士と、現棋界を治める20歳による32歳差対決は、AIを媒介としたまさに史上最高の頭脳勝負。藤井聡太ウォッチャーのフロントランナーである谷川浩司も、藤井ばかりを見ているわけにはいかないようだ。
(#1/「藤井将棋」編からつづく)
谷川浩司(たにがわ・こうじ)
1962年生まれ、神戸市出身。5歳で将棋を覚える。1976年に史上2人目の「中学生棋士」として四段デビュー。1983年、史上最年少の21歳2ヵ月で名人位を獲得。タイトル獲得数は通算27期、棋戦優勝は22回。「光速の寄せ」で知られる。将棋に関する著書も数多く、2023年1月には『藤井聡太はどこまで強くなるのか 名人への道』(講談社+α新書)を上梓した。