ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
松山英樹が2連覇した人気コースはなぜ「65万人」も動員できる? “当たり外れ”が多いゴルフ観戦でも“老若男女”が集まる理由
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byGetty Images
posted2023/02/19 11:44
松山英樹が2016、17年に連覇を達成したフェニックスオープン。練習日を合わせて述べ65万人以上が来場する人気トーナメントだ
フェニックスの一日は長い。陽が落ちてもパーティは終わらない。PGAツアーでは他大会でも珍しくないが、夜は敷地内外で有名アーティストのコンサートも実施される。一定数の若者は夜通し遊んでも家に帰らない。そのまま入場ゲートで開門を待ち、16番ホールの席取りをするため、白い息を吐いて早朝のコースを駆け抜けるのだ。
ところで、恐るべき人入りを誇るフェニックスオープンだが、来場する人々がみな純粋培養されたゴルフファンかというと疑わしい。プレーを見るのは二の次で、食べたり飲んだり、旧交を温めたり、ナンパしたりされたりと、ゴルフ観戦でないものを楽しんでいるような人ばかりに見えて仕方がない。
ゴルフ観戦は“当たり外れ”が多い
あらゆる世代が、あらゆる理由で会場に足を運ぶ。来場者の表現が、ただの「老若男女」では言葉足らずなような気がしてならない。戦火で肉体の一部を失った退役軍人。ゴルフよりスマホゲームに夢中の子ども。骨折中にも関わらず、松葉杖姿で仲間の背中を追う学生。よちよち歩きどころか、「まだ半分は天使です」みたいなホヤホヤの赤ん坊を抱っこする新米ママ。一見すると皆、わざわざ足場の悪いゴルフ場に来る理由がなさそうな面々も少なくない。
彼らがコースに足を運ぶのは、リーダーボードの戦況はさておき、「名物スタンドで観てみたい」「友人に会いに行きたい」「野外でご飯を食べたい」といった、“ゴルフの打数でないところ”への楽しみが多いから。
プロゴルフ観戦は試合展開の様子だけを追う興行としては、なにせ”当たり外れ”が激しい。まず天候に恵まれるとは限らない。お目当ての選手がすでに予選落ちして、当日いないかもしれない。スーパーショットが見られる保証もない。フェニックスオープンはとくに、そういった難点をカバーできる大会だと思えるから、オススメできる。
TPCスコッツデールに押し寄せる人々がゴルフファンではないという“確固たる証拠”がひとつ。プロゴルフの試合は1日で最も多くの人が集まるのは優勝者が決まる日曜日だが、フェニックスオープンは土曜日である。最終日が毎年、国民的行事であるNFLのスーパーボウルの開催日と重なるのが理由。来場者は前日から半分以下になり、優勝セレモニーもなんだかせわしなく終わる。