ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
松山英樹が2連覇した人気コースはなぜ「65万人」も動員できる? “当たり外れ”が多いゴルフ観戦でも“老若男女”が集まる理由
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byGetty Images
posted2023/02/19 11:44
松山英樹が2016、17年に連覇を達成したフェニックスオープン。練習日を合わせて述べ65万人以上が来場する人気トーナメントだ
現在は公式発表を行っていない来場者数は、2017年に練習日の火曜日~最終日の日曜日の6日間でのべ65万5434人を記録した。これはどれほどの数字か。新型コロナ禍以前の2019年、日本の男子ツアーが国内開催の年間23試合で集めたギャラリーは32万7801人。人気絶頂、女子ツアーでも同年68万2868人(39試合)だった。
大会が”The People’s Open”の異名を持つ所以だ。
なにも砂漠の広大な敷地だけが、これほど多くの人入りの要因ではない。音楽や食事、アルコールを楽しむバーエリアやスポンサーテントをはじめ、お客さんを呼び込む仕掛けがたくさん。その象徴がスタジアム、あるいはコロッセオと呼ばれる16番ホールである。
バックナインのパー3は163ヤード。グリーン周りに池などのペナルティエリアもなく、プロゴルファーにすれば、なんてことのないホールがこのトーナメント中は一変する。外周360度が巨大な鉄製の観覧席に取り囲まれるその姿は、野球場かなにかの競技場かと見まごう。
大会期間中の“仮設スタンド”と侮ることなかれ。場内は年々進化を遂げ、最上段は3階席に。スタンド上部には数年前に帯状、横長の電光掲示板が設置され、画面上にティイングエリアに立つ選手たちの名前とスコアが滑るようになった。今年現地に赴いた記者によると、ほんとに野球場にあるような大型ビジョンまで新たにできたという。
ゴルフ観戦の“御法度”が許される
「選手が打つのでお静かに」がゴルフ観戦の基本マナー。大声を出して騒いだりする“御法度”が、ここでは許される。プレーの一つひとつに大歓声とブーイングが飛び交い、場内は大騒ぎ。最近はトラブル防止のためいくつか規制が入ったが、ちょっと前までは選手がスタンドにギャラリー用の帽子やグッズを投げ入れたり、キャディがバッグを担いだままグリーン手前までダッシュするレースが繰り広げられたりで、喧騒が絶えなかった。
スタンド場外には日中、席待ちの列ができる。中の様子はもちろん、他のホールにいる選手すらほとんど見えないにも関わらず、だ。観覧席はそういったギャラリーが入る一般チケットでも入れる自由席とともに、エリアの一画を企業などに売り出すボックスシートがあることが収益構造のミソ。食事やお酒を振る舞って、顧客をもてなすビジネスが成り立っている。
このスタジアム、直近の収容人数は約2万5000人にも上る。マスターズなどの男子メジャーでも1日の全体のギャラリー数は4万~5万人が相場とされ、日本では男女とも1日2万人が入れば「記録的」とか「歴史的」と書いたってイイ。それに匹敵する数字をこの試合は1ホールで叩き出す。最近は次の17番ホール、18番ホールのスタンドも年々大きくなり、コース全体への1日の来場者数は例年最多となる土曜日に20万人を超える。