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藤井聡太「六冠誕生」を「10連覇中の勝率.750」渡辺明棋王が阻むか…棋王戦の敗者復活戦は「名物記者と柔道」がきっかけ? 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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posted2023/02/14 17:00

藤井聡太「六冠誕生」を「10連覇中の勝率.750」渡辺明棋王が阻むか…棋王戦の敗者復活戦は「名物記者と柔道」がきっかけ?<Number Web> photograph by JIJI PRESS

棋王戦第1局は藤井聡太竜王が勝利し、一歩リードを取った(代表撮影)

 棋王戦第1局の戦型は角換わり腰掛け銀だった。後手番の渡辺が先攻し、前例のある戦いが続いた。藤井は機を見て反撃に転じ、▲2三歩の垂れ歩を打った。渡辺はかまわず攻め合いにいったが、藤井は△同金と取られて難しいと思ったという。

 第2図は中盤の部分局面。藤井の▲2四香が好手で、次に▲2二歩成が生じて良くなった。

 藤井は第2図から有利を着実に広げていき、懸命に粘る渡辺の玉を寄せ切った。

 渡辺は終局後に「勝負所がどこだったのかわからない」と語り、不思議そうな様子だったという。

 そう言えば今期の王将戦第1局で藤井五冠に敗れた羽生九段も、「何が悪かったのか、調べてみないとわかりません」と語ったものだ(その後、第2局と第4局で勝利している羽生もさすがだが)。

 対戦相手に不利を感じさせないまま勝った藤井の将棋。まさに異次元の強さといえる。

棋王戦の敗者復活戦は柔道から着想を得た?

 棋王戦第2局は2月18日に石川県金沢市で行われる。

 棋王戦の主催者は共同通信社である。河北新報、信濃毎日新聞、静岡新聞、北日本新聞、京都新聞、山陽新聞、愛媛新聞、熊本日日新聞、沖縄タイムスなど、21社の地方新聞社が加盟している。

 共同通信社は約50年前まで、「最強者決定戦」(順位戦のA級とB級の棋士が出場)と「古豪新鋭棋戦」(C級の棋士と奨励会三段が出場)の2棋戦を主催していた。それらの棋戦が発展的に解消され、1975年に6番目のタイトル戦として「棋王戦」が誕生した。

 その立ち上げに尽力したのが、担当記者の田辺忠幸さんである。タイトル戦に昇格させるために、役員に掛け合って契約金を倍増させた。「将棋の王者」という意味で、棋王戦と命名した。さらに、プロ公式戦で唯一である敗者復活戦の方式を導入した。

 実は、田辺さんは共同通信社の運動部に所属していて、柔道界と縁があった。柔道の試合にある敗者復活戦の方式を思いつき、棋王戦に取り入れたという。

 当初の棋王戦は、挑戦者決定トーナメントのベスト16以上で敗者復活戦に進めた。ただ対局日程が過密になったのでベスト8以上に変わり、現行は準決勝以上の4人が敗者復活戦に進める。

 また、勝者組と敗者組の最終勝者が対戦する挑戦者決定戦は、以前は一番勝負だった。1992年度からは、勝者組の実績を尊重して現行の二番勝負になった。

 なお、柔道の敗者復活戦の場合は準々決勝以上の敗者によるトーナメントだが、勝ち進んでも3位が最高。挑戦者となる可能性がある棋王戦の敗者復活戦とは違う。

 田辺さんは名物記者として知られ、「チューコーさん」の愛称で棋士たちに親しまれた。退職後は観戦記者として活躍した。

【次ページ】 田丸七段も挑戦者決定戦で大山十五世名人に挑んだが

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