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藤井聡太vs永瀬拓矢「千日手」は再び起こるのか…じつは羽生善治vs谷川浩司の“七冠阻止”大一番でも発生、「将棋のガン」と評した棋士とは
posted2025/07/05 06:00

名人戦第5局、千日手成立時の両対局者
text by

田丸昇Noboru Tamaru
photograph by
日本将棋連盟
今春に行われた第83期名人戦七番勝負は、藤井聡太名人(22=竜王・王位・王座・棋聖・棋王・王将と合わせて七冠)が挑戦者の永瀬拓矢九段(32)を4勝1敗で下し、名人戦3連覇を果たした。そのうち第2局と第3局が千日手模様になり、第4局と第5局は実際に千日手になって指し直し局が行われた。千日手規定の歴史と変遷、過去のタイトル戦の千日手、千日手に関する棋士の考えなどについて、田丸昇九段が解説する。【棋士の肩書はいずれも当時】
今期名人戦で各局で起きた千日手と千日手模様
「千日手」とは、両対局者が同じ指し手を繰り返して、同一局面が4回現われると無勝負になる(連続王手は適用されない)。タイトル戦では先手・後手を入れ替えて指し直し局が行われ、原則として、千日手局の残り時間が指し直し局の持ち時間になる。以下、名人戦(持ち時間は各9時間)各局を振り返っていく。
〈第2局〉
序盤で千日手模様の指し手が続いたが、2日目に後手番の永瀬が先制して戦いが始まった。局後に「予定どおり」と語り、研究範囲だったようだ。永瀬は有利な戦いを進めたが終盤で勝機を逃し、藤井が接戦を制した。
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〈第3局〉
序盤の千日手模様の局面で封じ手となった。2日目に先手番の永瀬は別の手を指して千日手を打開した。
「後手番で用意の策がなかった」
局後に永瀬はこう語ったが、本譜は中央を抑えられて苦しい形になり、藤井の6筋からの攻めが厳しかった。藤井は本局に勝って3連勝し、名人防衛に王手をかけた。
永瀬「藤井さんとの2日制は、それくらい消耗を…」
〈第4局〉
戦いが始まってまもなく、1日目の17時3分に同一局面4回で千日手になった。よくある必然の手順が繰り返され、両者ともに回避できず。名人戦では6年ぶりに千日手が成立した。
通常は30分後に指し直し局が行われるが、規定によって2日目に再開することになった。ただ両者の消費時間の関係で、指し直し局の持ち時間は永瀬が6時間26分、藤井は3時間44分と大きな差がついた。藤井としてみれば時間を多く使ったのに千日手になり、次局が後手番に入れ替わったのは誤算だった。
千日手指し直し局は、藤井が中盤で有利と思われたが、永瀬が粘り強く指して形勢はもつれた。その後、猛烈な寄せ合いから両者は1分将棋の秒読みとなり、最後は永瀬が相手玉を即詰みに討ち取った。
永瀬は藤井との先手番のタイトル戦で11戦全敗だったが、ついに初勝利を挙げた。局後にはこのように語っている。