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61歳で死去・渡辺徹さんは将棋愛にあふれた人だった 「天国で好敵手の志村けんさんと…」かつて取材した田丸昇九段が悼む 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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photograph byBUNGEISHUNJU

posted2022/12/20 11:00

61歳で死去・渡辺徹さんは将棋愛にあふれた人だった 「天国で好敵手の志村けんさんと…」かつて取材した田丸昇九段が悼む<Number Web> photograph by BUNGEISHUNJU

朗らかな笑顔でお茶の間の人気者だった渡辺徹さん。将棋愛好家としても知られた(2015年撮影)

 写真は、愛用の将棋盤で指している光景。外出するときは、その折り畳み盤と駒をいつもカバンに入れて持ち歩いていたという。

 渡辺さんは将棋の魅力について、次のように語った。

「将棋に人生をかけ、それを職業にして家族を養っている人たちがいることが、当初はとても奇異に思えました。ふと自分を振り返れば、役者も似たようなものです。生きざまとして、教科書みたいだなと感じました。文学座の研究生時代は、芝居が思うようにできず苦悶しました。それだけに、棋士の卵の奨励会員の人たちの苦しさがよく分かります。私が将棋に熱中したのは、棋士の世界をもっと知りたいと思ったのが一番の理由です」

「将棋を指した翌日は、頭がすっきりします!」

 渡辺さんは、1998年に放送された「21世紀に残したいもの」というテーマのテレビ番組に出演したとき、各地の将棋道場を訪れた。

 まず東京・渋谷のゲームセンターで遊んでいた小学生に声をかけ、路上で将棋を指してみたところ、あっさりと負けてしまって悔しい思いをした。

 東京・御徒町の将棋道場で働いていて、以前に教わった元奨励会員には、行く末について尋ねて激励した。

 福島市のひなびた将棋道場を訪れると、みんな優しい人ばかりだった。東北らしい家族的な雰囲気は、時間がたつのを忘れるほど楽しかったという。将棋は全敗だったが、テレビで見た渡辺さんの表情は和やかだった。

 その番組では、京都府・舞鶴の西本馨七段の将棋道場が紹介された。盲目の西本七段(当時75)は、夫人が読み上げる指し手を聞きながら、同時に3面でアマに指導対局をしていた。渡辺さんらの出演者は、頭脳が明晰な老棋士と夫婦の共同作業を見て、大感激の様子だった。

 渡辺さんは「あの番組では、各地の将棋道場の雰囲気を知りたくて、私が提案したんです。とても貴重な経験をさせてもらいました。将棋って1対1でぶつかり合い、ともに真剣になる瞬間があるからこそ、素直になって相手を認め、何も会話がなくても親しくなれるんですよ。うそのない世界は居心地がいいですね。ダイエットはともかくとして(笑)、将棋は健康にいいです。指した翌日は、頭がすっきりします!」と、将棋の良さを推奨した。

羽生九段、森内九段らとも交流が

 将棋に熱中した渡辺さんの棋力は、アマ二段ぐらいに伸びた。大山十五世名人の「良い道具を持てば上達する」という教えを実践し、駒の生産地で知られる山形県天童市に行ったときは、約100万円もの盛り上げ駒を購入した。

【次ページ】 伊武雅刀、吉田拓郎、志村けんとも対局を

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