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「もちろん断然優位だ」井上尚弥に死角なし? 米リング誌の編集長も確信する“4団体統一”「バトラー戦以降もエキサイティングな未来がある」
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byJIJI PRESS
posted2022/12/12 11:02
日本人初の4団体統一戦に臨む井上尚弥。米リングマガジン編集長はバトラーへの敬意を示すも、井上に対して「断然優位」との見解を述べた
私は9月、ロサンジェルスにトレーニングに来た井上のトレーニングキャンプを間近で見る機会に恵まれました。そこで感じたのは、井上が考えながら戦える選手だということです。とても賢明なボクサー。相手のことを戦いながら学び、それをすぐにリング上でいかせる選手という印象を持ちました。
私が見たのはキャンプの終盤で、同行していた元世界3階級王者・八重樫東は「1、2週間前はもっといい状態だった」という話もしていました。実際に少し疲れが感じられ、それもあってか、井上の身体能力に度肝を抜かれることはありませんでした。もちろん優れたアスリートではありましたが、エドウィン・バレロ(ベネズエラ)、マニー・パッキャオ(フィリピン)、若き日のシェーン・モズリー(アメリカ)といった選手たちほどダイナミックだとは感じなかったのです。
ただ、たとえそうではあっても、井上がエリートレベルのボクサーであることに疑いの余地はありません。スピード、パワーももちろんですが、それよりもタイミングとパンチセレクションの良さが印象に残りました。適切な時に、最善のパンチを放つことができる選手。適応能力が飛び抜けているのでしょう。
フィッシャー氏が挙げる懸念材料とは?
そんな井上に関してあえて懸念材料を挙げるとすれば、試合間にかなり体重が重くなっているように感じたことが少し気にはなりました。
試合直前に急激に減量するのは、日本のボクサーに共通する特徴かもしれません。20代前半、半ばくらいまではそれでも大丈夫かもしれませんが、20代後半、30代に入った頃には減量、調整はより難しくなるもの。試合ごとに体重の増減を繰り返すと、身体は消耗します。それを続ければ壁にぶつかる時は来るもので、ボクサーは往々にしてリングに上がるまでその瞬間が訪れたことに気がつかないものです。
また、数年前までの井上は知る人ぞ知る存在で、多くのボクシング関係者のレーダーから抜け落ちていたと感じることがありました。ボクシングが大好きで、すべての強豪ボクサーの試合を見ていると公言していたNBA選手(ポートランド・トレイルブレイザーズのデイミアン・リラード)が井上をパウンド・フォー・パウンドリストから外していたこともありました。そんな時期はもう終わったのです。試合がESPNで放送され、リングマガジンのパウンド・フォー・パウンドランキングで1位に立つことで、井上の知名度は上がり、周辺階級の全ボクサーから目標にされる存在になりました。
2年ほど前までは井上のことを言及したことなどなかったWBC、WBO世界スーパーバンタム級統一王者スティーブン・フルトン(アメリカ)が、最近ではよく井上の名前を挙げるようになったのがその好例です。特にこれからスーパーバンタム級、フェザー級と進むと、対戦相手は大きくなり、簡単にはKOできなくなるかもしれません。同時にすべての対戦相手がじっくりと研究し、ビッグネームである井上との戦いに臨んできます。おかげで井上にはより難しいチャレンジが待ち受けており、それゆえに余計に興味深い戦いが続くといえるのでしょう。