濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「デスマッチ・イズ・マイライフ」妻の急死を乗り越えた“クレイジー・キッド”竹田誠志の決意「蛍光灯やカミソリで傷つけ…でもそれが生きがい」
posted2022/12/06 11:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
竹田誠志は、世界最高峰に位置するデスマッチファイターだ。
大日本プロレスとFREEDOMS、日本の2大デスマッチ団体で王座を獲得しただけでなく、アメリカのデスマッチトーナメントで優勝を果たしてもいる。
“クレイジー・キッド”の異名通り、その闘いぶりは狂気性に満ちたもの。独自のアイテムとして巨大なハサミがトレードマークになっている。包丁を敷き詰めたボードを使ったことも。もちろん、やった分だけやられるのがデスマッチ。“受けっぷり”も含めて彼はクレイジーであり、狂えば狂うほど世界中のデスマッチフリークから支持を得てきた。
それだけに、ケガも避けられなかった。2020年には自らリングに持ち込んだ包丁ボードで肉が裂け、長期欠場に。復帰すると、今度は蛍光灯が体を抉った。いずれもアクシデント的な負傷で、それは竹田の動きの激しさによるものとも言えた。狂うことによって観客を魅了し、それゆえに危うさも感じさせるのが竹田誠志だと言っていいだろう。
今年1月からも長期欠場となった。妻の由佳さんが急死したためだ。まったく予想できなかった、とてつもない痛みと悲しみ。欠場を報告するツイートに、竹田はこう記している。
〈まだまだ現実を受け止められません。小さい子供も居ますので心と生活が戻るまで当分の間活動を休止させて頂きます〉
自分にできることは何か。娘のためにどう生きるべきか。考えに考えて、それでも答えはプロレス、そしてデスマッチしかなかった。むしろ血だらけ、傷だらけの姿を見せることが、父としての役目ではないかと感じた。
亡き妻の誕生日に、デスマッチへの誓い
復帰戦は7月10日、FREEDOMS後楽園ホール大会。メインイベントで“デスマッチのカリスマ”葛西純、当時のシングル王者である正岡大介とチームを組んでの6人タッグマッチだった。普段は敵対する3人、しかしこの日ばかりは違った。デスマッチに戻ってくる竹田を迎えるための最高のメンバーが、このチームだった。
葛西が3カウントを奪い試合が終わる。場外戦を繰り広げていた竹田は、ゴングを聞くと一瞬、天を仰いだ。その口は何か言葉を発していて、筆者にはそれが妻の名のように聞こえた。
試合後「レスラーがリングで言うことじゃねえけど」と前置きして観客に語りかけた。
「今日だけは言いたい……この半年間、支えてくれてありがとうございました!」
そして本部席で試合を見ていた2歳の娘のほうを向く。
「これがパパの本当の姿なんだよ。血を流して、頭おかしくて。でもお前を絶対、最高の父子家庭で育ててやるからな」
妻への言葉では感極まった。血だらけ傷だらけの男の言葉は、余計に胸に迫った。
「嫁さん、あんたがいたから思いっきりデスマッチができた。これからもそばで見守っててくれ。誕生日おめでとう!」
この日は妻の誕生日だった。そんな日に復帰し、あらためてデスマッチファイターとして生きることを誓った。
「やっぱり涙より血を流したい」