濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「デスマッチ・イズ・マイライフ」妻の急死を乗り越えた“クレイジー・キッド”竹田誠志の決意「蛍光灯やカミソリで傷つけ…でもそれが生きがい」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2022/12/06 11:00
長期欠場から復帰した竹田誠志
「蛍光灯やカミソリで傷つけて…でもそれが生きがいなんだ」
いったんリングを降りた竹田だが、葛西に呼び戻された。「復帰してハッピーエンドじゃねえぞ。ここからが始まりだ」と葛西。正岡と3人で後ろ受身を取る。ガラスや蛍光灯の破片だらけのマットで、だ。試合開始時にも、復帰の儀式のように自分の頭で蛍光灯を割っていた。さらにガラスボードに投げつけられ、ハサミを相手に突き立てた。デスマッチが楽しくて仕方ない、そんな動きであり表情だった。
本調子だったかといえば、やはりそうではない。ブランクの影響は当然ある。彼の人生そのものが激変したのだ。体を絞ったように見えたが、それはプロレスラーとしては“小さくなってしまった”ということになる。
「今までは嫁さんが家事をやって、家を守ってくれてたから。オレは好き勝手にトレーニングして、付き合いをこなして、自由にやらせてもらってた。今はそれができてないんでね。自分のできる範囲、精一杯でやるしかない。“竹田、しょっぱくなったな”って言う人もいるかもしれないけど、ここから巻き返していく」
生活そのもの、人生そのものがデスマッチと直結した人間がそこにいた。出てくる言葉のすべてが重い。
「オレの人生は散々だけど、デスマッチしかねえんだよ。ほかの仕事やろうとも思ったけど、これ以上の仕事なんてない。血を流して、蛍光灯やカミソリで体を傷つけて。ハタから見たらバカかもしれねえ。でもそれが生きがいなんだ。嫁さんのことがあったのにこんなこと言うのもなんだけど、それで死んだっていいんだ、オレは。生活の一部なんだよ、これが。
娘はまだ2歳で何も分かんないだろう。でも大人になった時に“パパはデスマッチで育ててくれた”って言わせる。そうなるまで這い上がる。今日は本部席で見てるとは思ってなかったけど、見れば見るほど元気をくれる。嫁さんが亡くなったって状況は本人なりに感じてるのかな。大人になったら忘れちゃうのか。娘を立派に育てるのがオレの義務。血を流してね。もし体が動かなくなって、デスマッチができなくなっても、なんとかして立派な大人に育てないと」
デスマッチを“残酷ショー”だという人もいるが…
悲しみを振り切ってのリング。試合の序盤、ガラスボードに投げつけられて血を流した時に「気持ちいい」と感じた。竹田は「いい血を流す」という言葉をよく使う。その感覚を思い出した。
「今回のことで、神様なんていないと思ったよ。でもデスマッチは神が与えてくれたもの、天職なんだと思いたい。自分はデスマッチをやるために生まれてきたんだって思っちゃう。やっぱりやめられない、デスマッチは」
ファンや関係者には恩返しがしたいとも。と言って何ができるわけじゃない、やっぱり試合で、デスマッチで恩返しするんだと竹田は言った。
モノを使って殴り合い、血を流し、体を傷だらけにするデスマッチを“残酷ショー”のように言う者もいる。しかし続けて見ていると分かるが、デスマッチは精神性と不可分だ。竹田や葛西といった一流のデスマッチファイターたちは、その言葉にも深みがある。