ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
1071日ぶりの優勝…石川遼が“30代初栄冠”を「手放しで喜べない」理由とは?「もっと自分を磨ける、まだまだデコボコだな……と思う」
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byKYODO
posted2022/11/16 17:02
三井住友VISA太平洋マスターズ最終日、プレーオフを制してツアー通算18勝目を挙げた石川遼(31歳)。3年ぶりのウイニングパットを沈めて空を見上げた
30代初勝利の今回は、同じように「絶好調だった」とは言えない。今年の御殿場の勝利の女神は、誰かに微笑みかけたと思ったら、ツンとそっぽを向くようにずいぶんと移り気で、最終日は大混戦。まだプロ2戦目の蝉川泰果(せみかわ・たいが)がフィールドを引っ張り、石川は同じ最終組で出た星野と3打差2位から追い上げを図った。
恐れを知らず、全身を使ってドライバーを振りちぎる蝉川、日曜日に強くなった風を低弾道で切り裂いていく星野に比べれば、ティイングエリアからの石川のショットは見劣りしたかもしれない。フェアウェイウッドやユーティリティを握るホールも多かった。
長いショットの不安定さがすべて解消されたわけではない。調子と、試行錯誤の段階に即したマネジメントを忠実に実行した。5本のウェッジを巧みに操り、パターを握ったときにいっそう勝負師の顔つきになった。
サンデーバックナイン突入時に3人で首位に並び、10番で一歩前に出た星野を、残り110ヤードからの2打目を見事なスピンコントロールでピンそば2メートルにつけた12番のバーディでとらえた。突風を読み切れなかった14番、第2打で安全策を取り切れずグリーン手前の池に落としてダブルボギー。それでも5メートルのチャンスを生かした続く15番でまた追いつき、延長戦に持ち込んだ。
「今回は(調子が)めちゃくちゃ良かったわけでもない。丁寧なプレーを意識した。ダブルボギーがもったいなかったが、そう言ったミスを最小限に抑える努力を4日間続けた。マネジメントミスは14番くらい」
「まだまだデコボコだな……と思う」
18番パー5でのプレーオフでは、2回ともフェアウェイウッドでのティショットが右に流れた。繊細なウェッジワークで懸命にチャンスメーク。2ホール目、残り130ヤードの3打目は、雨水を含んだ左ラフから。「思ったよりも空気が重く『飛んでいない』と見送っていた」一打はピンと同じ奥の段に残り、4メートルのウィニングパットをお膳立てした。
復活の瞬間は確かに、自ら楽しみに思い描いていた。
「優勝したときにどんな感情になるのか、一瞬だけ考えたことがあって。『いろんなことが走馬灯のように……』みたいになるのかなとか」
“期待”は裏切られた。
「でも、このゴルフでこの結果か……という気持ちもある。良い意味で、苦しい中でもマネジメントで勝てたというの(手応え)もあるが、もっともっと自分を磨ける、まだまだデコボコだな……と思う」