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オリンピックへの道BACK NUMBER
「羽生結弦さんを見る目がかわりました」元朝日新聞フォトグラファーが振り返る10年前“伝説のニース“「隣で“菅原さん”が涙を流していて…」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byHiroki Endo/Asahi Shimbun
posted2022/11/13 11:02
2012年ニースで行われた世界選手権で演技をする当時17歳の羽生結弦。初出場で銅メダルを獲得し、今では“伝説”となっている演技を元朝日新聞フォトグラファーが振り返った
ただ、遠藤は必ずしも乗り気というわけではなかった。
「震災に触れる時間を過ごしていて、1人1人話を聞いて記事にして、という仕事をしていました。スポーツは好きではあるけれど、『その期間はこの人たちに会えないんだ』という意識がありました」
あの15歳が17歳になったんだ
それでも気持ちの整理をつけ、大会に臨んだ遠藤が考えていた撮影の心構えはこうだった。
「正直、バンクーバーオリンピックで銀メダルを獲った浅田真央さんをどう撮ろうか、銅メダルの髙橋大輔さんは、ということが中心にありました。世の中の関心もそうでした」
だが、大会を前にした空気は、やがて覆されることになる。
「羽生さんを見る目がかわりました」
遠藤は語る。
「あの15歳が17歳になったんだ、という感慨のようなものがありました」
その印象の変化は、「間があった」からこそよりはっきり感じられたのかもしれない。
最後まで「びしびし来ていた」
羽生はショートプログラムで7位。そこからフリーで渾身の演技を披露し銅メダル、初出場で表彰台に上がってみせた。その演技こそ、遠藤の見る目をかえた4分30秒だった。
「表情は長いレンズで撮っているのでよく分かります。それまでとは違って、最後まで『びしびし来ていた』、そんな感じがしました。目つきもかわっていたし、会場も盛り上がっていって、終わったあと、手に汗を握るような感じでもありました」
その演技を象徴するのが、ステップを切り取った1枚だ。
遠藤は演技直後のある光景と言葉を鮮明に覚えている。