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酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「野村克也さんは“弱者の理論”なんです」「代打でもいいから阪神、来るか?と」通算306本塁打・広澤克実が感謝する“ノムさんの教えと情”
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byTakao Yamada
posted2022/11/02 17:24
1993年、ヤクルトで日本一を経験した際の広澤克実
「弱いチームがどうやって強いチームに勝っていくのか、と言う話が多くて、それまでは守る、走る、打つだけでしたから、最初のうちは僕ら窮屈でしたね。でもそういう僕たちに知識を与えてもらったんだと思っています。
野村さんがお亡くなりになった後にご自宅にお伺いしたんですが、本棚にはものすごい数の本があった。野村さんに知恵を与えたのは本だったんだと思いました。経済学、経営学、歴史の本。いろんな著名人の本もあった。僕も経験あるけど、本って何百ページもあっても結局自分にとって役に立つところって十数ページしかないんですよ。野村さんは何百冊も本を読んで、その大事な部分の話をしてくれた。何百冊分の知恵を僕らにつけてくれたんだと思います。
そしていろんな本の内容を、野球に置き換えて教えてくれた。日本の戦国武将が、中国の歴史をすごく勉強していたように、いろいろ学んで応用していたんです。すごく勉強された人だなと思います。それに引き換え、今の監督は何の勉強しているのかと思いますよ。バッターとピッチャーの交代しかしませんからね」
野村さんの教えで読みが当たって、野球が面白く
では――具体的には、どんな教えがあったのだろうか?
「例えばエースが一番いいボールを投げてくる。バッターの弱いところ、強いところを考えて投げる。ここはホームランを打たれちゃいけない状況なのか、引っ張られちゃいけない場面なのか、投手の立場に立って、配球をいろいろ考えなさいと。
配球は高めか低めかストライクかボールか、この4パターンの組み合わせしかないので、その中で考えなさいと。単純な捕手ほどそのパターンにはまって配球をするので、読むことができるようになりましたね。
巨人の斎藤雅樹は、最初のうち全然打てなかったんです。でも途中から打てるようにった。それは一生懸命斎藤攻略を考えるんじゃなくて、キャッチャーの村田真一のことを考えると打てるようになったんです。
今でもそうでしょ? オリックスの山本由伸や阪神の青柳晃洋の球、どうやって打つんだとなったらバッターが山本や青柳のレベルにならないといけない。でも、キャッチャーのことを考えればまた違ってくるんですね。
よく観察していると、斎藤雅樹は村田のサインにほとんど首を振らないんです。で、村田の配球を見たら外投げたら内とか、内から外とか、わりと単純な配球をしているんです。だいたい投げるボールがわかってくると打てるようになって。
もちろん野村さんの教えですが、読みが当たって打てるようになって野球が面白くなったんですね」
FAで巨人移籍も大ケガ、レギュラーを奪われて
そんな広澤氏に転機が訪れたのは、1994年オフのことだった。FA宣言をして、10年在籍したヤクルトを退団し、巨人に移籍したのだ