濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「あとは任せた」K-1新局面に“武尊をめぐるドラマ”が…ライバル・レオナと親友・大岩にかけた言葉「これであきらめるのは違うよ」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakao Masaki
posted2022/10/07 17:06
“親友”大岩龍矢のセコンドについた武尊。K-1のリングには、“武尊をめぐるドラマ”が生まれていた
リングには“武尊をめぐるドラマ”があった
大会当日。アップのときに調子が悪く不安に駆られたとレオナは言う。1回戦ではアヤブ・セギリにダウンを奪われた。だが、そこから立て直す力もレオナにはあった。2ラウンドに2度ダウンさせ逆転KO勝利を決める。引退をかけて上がったリングで、そう簡単に負けるわけにはいかなかった。この日のレオナは、強い思いが“落ち着き”という形で発揮された。
準決勝では、対角のコーナーに武尊がいた。対戦相手の大岩龍矢は武尊と同じジムの所属であり、プライベートでも常に行動をともにする親友だ。格闘技とは違うイベントに出演した際にも、武尊はこの大会をアピールし、大岩にチャンピオンになってほしいとコメントしている。武尊とレオナには拳を交えた同士の関係性があり、武尊と大岩はずっと苦楽をともにしてきた。那須川戦に向けて、武尊にはカメラの前では見せられない姿もあっただろう。そんなときでも横にいる存在が大岩だった。
大岩はキャリアの中でKO負けがない。「フルラウンドやらなきゃ」という気持ちでレオナはリングに向かった。楽をするつもりはなかったのだ。そのために、これまでで最もハードなトレーニングを自分に課してきた。
腹を括って闘ったからこそなのか、試合は2ラウンドKOで終わった。パンチを振って突進したい大岩をジャブで止める。手詰まりになってきたところで不意を突いての飛びヒザ。大岩は真後ろに倒れた。レオナはK-1の系列大会、Krushのタイトルマッチでも大岩に勝っている。その結果を受けて、武尊vs.レオナが決まったのだった。
そして今回は、武尊が持っていたベルトを目指しての対戦。武尊は試合をしたわけではないが、リングには確かに“武尊をめぐるドラマ”があった。そこで勝ったのがレオナだった。敗れた親友を、武尊は「これであきらめるのは違うよ」という言葉で励ましたという。
レオナの意地「ナメんなよって」
決勝はレオナと朝久裕貴。弟の泰央はK-1のライト級チャンピオンだ。兄もこのトーナメントでポテンシャルを爆発させ、1回戦、準決勝ともに1ラウンド1分以内でKO勝利を収めている。体力、ダメージとしてはレオナが不利。またも“気持ち”が問われる試合だった。試合前の心境を、レオナはこう振り返っている。
「負けても仕方ない、言い訳できる状況で。でもここで言い訳したら(自分は)一生言い訳し続けることになるなって、すべてのことに対して」
不利だと自分でも分かっているからこそ「ナメんなよって、逆に燃えるところもありました」。試合は混戦、乱戦。打ち合いから組み付き、離れてはまた打ち合う。体力を消耗しやすい展開と言っていい。だが、そうした「ケンカファイト」には自信があった。組んだらブレイクされる前にヒザを出すのも事前に決めていた作戦だ。最後まで集中力を切らさず、自分が優位に立ったと感じても力をセーブすることなく、レオナは判定で勝ち切った。
レオナは『THE MATCH 2022』にK-1代表として出場したが、判定で敗れている。自分のほうがクリーンヒットが多く、採点でも上回っていると感じていたが、ジャッジは対戦相手の前進力と手数を支持したのだ。“自己採点”と客観的評価が違うことは常にあり得る。敗戦と引き換えの教訓が、引退をかけた正念場で活きた。