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西谷監督「7回になったぞ」から逆転…大阪桐蔭の初戦は本当に“辛勝”だったのか? 練習風景から見えた“絶対王者のスゴみ”
posted2022/08/11 06:01
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
KYODO
大阪大会でわずか1失点。
盤石だと思われていたセンバツ王者の大阪桐蔭が、初戦で旭川大にまわしを取られる。
まるで、猫だましのような先制パンチ。
初回、先頭バッターにセーフティバントで出塁を許す。そこから送りバントで二塁に進まれ、1死満塁から犠牲フライで先取点を奪われる。3回にも先頭にフォアボールを与え、続く3番の藤田大輝に手痛い一発を食らった。
絶対王者が揺れた「闘争心」と「緊張感」の間
0-3。序盤から体勢を崩される。
「どの大会でも初戦の入りは難しいものですが、相手も同じなので」
監督の西谷浩一がそう言い、チームが置かれた状況を冷静に見極める。
「セーフティバントを決められて向こうのパターンになったと言いますか。しっかり攻めてこられたなかで、こちらとしては受けて立つようなことはありませんでしたけど、そういうような形になってしまいました」
秋の明治神宮大会と春のセンバツを制した絶対王者。優勝候補の大本命と目され、初戦は順当に勝ち上がるだろうと期待されても、夏は異様な空気がチームを覆う。
キャプテンの星子天真が、チームのムードをこのように表現する。
「朝一の試合(第1試合)で緊張もあり、一人ひとり気持ちの持っていき方がちょっと難しかったのかなって思います」
選手たちは闘争心と緊張の間で揺れていた。
「夏は雰囲気が違いました」
去年の夏も主力として経験したキャッチャーの松尾汐恩が、再確認する。
「春と違って夏は雰囲気が違いました。『苦しい戦いになる』と頭にありましたけど、実際に試合に入ってより感じました」
松尾とバッテリーを組むエースの川原嗣貴が、核心を突くように心情を吐く。
「センバツは『次もある』という考えもできましたけど、夏は負けてしまったら終わりなわけで。積み上げてきたものがなくなってしまいますし、勝たないと何の意味もないんで」
川原は昨夏の近江戦で痛恨の決勝打を許し、涙に暮れた苦い経験を持つ。センバツの初戦でも先発を託され、夏も西谷から「打たれるからな」と念を押されているエースはしかし、序盤で3失点しながらも泰然自若だった。
「打たれても、『次のアウトを取ればいい』ってプラスに。雰囲気に飲まれないように考えながら投げていました」
ビハインドの展開となり、西谷は「選手は焦っていたと思う」と見ていながら、「これまでの経験が生きているのかな」と、腰を据えて戦況を見守っていた。