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那須川天心のボクシングの実力は「現時点で日本~東洋太平洋王者レベル」 敏腕トレーナーが語る成功の可能性と“わずかな不安要素”
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byTHE MATCH 2022/Susumu Nagao
posted2022/07/06 17:02
『THE MATCH 2022』でもボクシングテクニックで優位に立っていた那須川天心。ボクシング転向後の可能性を山田武士トレーナーに聞いた
村田諒太のように地域王者クラスとのデビュー戦も?
山田トレーナーに限らず、那須川のボクサーとしての才能を高く評価するボクシング関係者は多い。要は「モノが違う」ということだ。ならば那須川はボクシングの世界でもあっという間に頂点に立つことになるのだろうか。
ちなみに世界タイトル最速奪取の記録はセンサク・ムアンスリン(タイ)とワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)の3戦目。日本では田中恒成(畑中)が5戦目で世界王者となった。センサクはムエタイ出身で、ロマチェンコは五輪2大会連続金メダリスト。田中はアマチュアの高校トップ選手からプロデビューした。
センサクやロマチェンコ、田中のようなケースは異例で、普通は試合を重ねながら相手のレベルを徐々にアップさせ、経験を積みながらステップアップしていく。それがセオリーだ。山田トレーナーも「できれば世界戦までに試合数をこなしてキャリアを積むのが理想」と前置きしつつ、「天心にそれが許されるのかといえば難しいと思う」と持論を展開した。
「天心は別の競技とはいえ東京ドームに5万6000人を集め、国内のボクサーが手にできないような高額なファイトマネーを手にしました。これだけハードルが上がっている状況で、後楽園ホールでデビュー戦なんてあり得ないし、適当な相手とお茶を濁すような試合を重ねるのは難しい。許してもらえないと思うんですよ。キャリアは積みたいところですけど、ファンも関係者もそんなに我慢できないと思う」
那須川のデビュー戦は大注目の中で行われることになるだろう。そうなるとそれなりの会場、それなりの相手でなければファンは納得しないし、ボクシング界としても「何かショボくないか?」と思われるようなイベントにはできない。そこで思い出されるのが、ロンドン五輪金メダリスト、村田諒太(帝拳)のデビュー戦だ。
史上2人目の日本人金メダリストとしてプロに転じた村田は2013年、デビュー戦でいきなり東洋太平洋ミドル級王者の柴田明雄と対戦した。いくら村田といえども初陣で東洋太平洋王者はリスクがあると思われたが、結果は見事な2回TKO勝ちだった。