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「インタビューは難しい」20年前日本代表を苦しめた、あのベルギー代表FWヴィルモッツ53歳は今…母国のヒーローがマスコミ嫌いになった事件
posted2022/06/30 17:25
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
AFLO
「マルク・ヴィルモッツはもう、ベルギーのメディアに話そうとしないだろう。インタビューは難しいと思う」
今から20年前、ヴィルモッツはベルギー代表の主将として、日韓W杯に出場した。当時33歳の攻撃的MFは日本とのグループ初戦で、見事なバイシクルシュートで先制点を奪っている。そんなかつての名選手の話を聞きたいと思い、まずは彼と同胞の記者に可能性を尋ねたところ、冒頭の回答が届いた。
どうやら、その後にベルギー代表監督となったヴィルモッツが2014年W杯とEURO2016でベスト8止まりに終わると、母国のメディアのほとんどが指揮官を痛烈に批判したという。それ以来、彼はベルギー報道陣に口をつぐんでいるようだ。2つの主要大会で8強に入りながら、それほどの対立が生まれるとは――欧州の強豪国のプライドは、かくも高いのだろう。
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ただし、こちらとしてもすんなり引き下がるわけにはいかないので、ベルギーに住むトルコ人記者にも当たってみた。するとすぐに連絡を取ってくれた彼から、こんな一報が返ってきた。
「マルクがインタビューを快諾してくれた! しかも時間に制限は要らないと言ってくれている。彼自身、当時の話をすることに、すごく前向きだ」
こうして、日本と対戦したレジェンドとの約1時間にわたるインタビューができた。現役引退後には、国会議員を務めたこともある人だ。遺恨さえなければ、会話そのものは嫌いではないのだろう。
選手としてW杯に4度出場したヴィルモッツは現役引退後、母国のクラブと代表を始め、コートジボワール代表やイラン代表の監督を歴任し、昨年11月からはモロッコの名門ラジャ・カサブランカの指揮を執っていた。残念ながら、今年2月にその座を離れたものの、子供たちの学校が一区切りするまでは、そのまま北アフリカの沿岸で過ごすことを決めたという。家族と愛犬と共に温暖な気候を楽しんでいるようで、穏やかに、そして時に快活に20年前を振り返ってくれた。(聞き手:カーン・バヤズツ)
「代表から引退するよ」「ノー、ノー!」
2002年W杯の欧州予選でグループ6を戦ったベルギーはクロアチアに次ぐ2位となり、チェコとのプレーオフに臨んだ。その頃、シャルケに所属していたヴィルモッツは脛を負傷し、「歩くだけでも、ものすごく痛かった」と振り返る。母国の首都ブリュッセルでの第1戦を欠場すると、チームが1-0で勝利したにもかかわらず、ロベール・ワセージュ監督は彼に連絡してきたという。