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<60歳に>「ケンタサン、チョットPKオネガイネ」Jリーグ伝説の“クモ男守護神”シジマールが語る「日本人GK育成の秘訣」とは
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph byAsami Enomoto
posted2022/06/13 17:00
Jリーグ創成期に名守護神として大活躍したシジマール
「ケンタサン、チョットPKオネガイネ」
次々とPKをストップするシジマールの“クモ男”ポーズは大流行した。日本中のゴールマウスの前で、日本中の子供たちが、両手を広げた。
「最初に“クモ男”“スパイダーマン”と呼ばれたときは、びっくりしました。でも、スパイダーマンと比べてもらえるなんて光栄ですし、今でもそう呼んでくれるサポーターには、感謝しかありません」
当時の清水の練習場で、恒例となった光景がある。全体練習を終え、長谷川健太がクラブハウスへ引き上げようとすると、シジマールが声をかけた。
「ケンタサン、チョットPKオネガイネ」
当時のエスパルスにはGKコーチがいませんでしたから
すぐにPK対決が始まった。
「普通、GKはPKの練習をやりたがりません。でも、僕はいつも全体練習の後にPKを蹴ってもらっていました。PKを止めるためのコツは、相手の目を見ること。そして、ぎりぎりまで動かず我慢すること。当時のエスパルスにはGKコーチがいませんでしたから、常に自分で考えていました」
結局、広島とのデビュー戦前半9分から始まったシジマールの連続無失点記録は、9月3日のガンバ大阪戦の後半8分まで、731分間続いた。この記録は、今もなおJ1の最長記録として輝いている。
記憶にも、記録にも残る守護神だった。'96年シーズンかぎりで現役を退いた彼は現在、J3の藤枝MYFCでGKコーチを務めている。ここ数年、サッカー界では日本人GKの人材不足が指摘され、現に多くのJ1クラブが外国人選手を正GKに据えている。このことの是非を問うと、指導者シジマールは力強く首を横に振った。