濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
カリスマ葛西純「世の中は無駄な血を一滴も流すな」 頬を串刺し、人間ダーツ…それでもデスマッチが“ただの残虐ショー”ではない理由
posted2022/05/21 17:00
5月3日、所属するFREEDOMSの横浜武道館大会で佐久田俊行と対戦した葛西純。コスチュームは『時計じかけのオレンジ』ばり
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
今年のゴールデンウィークは好天が続いたが、横浜武道館のリングは「血の雨、洪水警報」だった。予告したのは“デスマッチのカリスマ”葛西純だ。
5月3日にFREEDOMS、5日には大日本プロレス。デスマッチで世界的にも有名な2大団体が、同じ会場でビッグマッチを開催した。
3日のFREEDOMS、葛西は佐久田俊行とシングルマッチ。元・大日本プロレスの佐久田（現在はフリー）はFREEDOMS参戦、葛西との闘いでデスマッチに“開眼”した感があり、このビッグマッチに相応しい顔合わせだった。葛西や現在欠場中の竹田誠志と同様、試合から狂気性が感じられるレスラーだ。
金串で頬を突き刺し…ノンストップの“狂い合い”
リングで対峙すると、お互い中指を立ててニヤリ。そこからノンストップで「狂い合」った。それが両者の望みだった。
一方は安全ピン、一方はカミソリを立てて敷き詰めた2枚のボードが用意され、そこに相手を投げつける。安全ピンとカミソリを額に突き立てる場面もあった。金串で頬を突き刺すのは佐久田が得意とする攻撃だが葛西もやり返す。さらに葛西は十八番の竹串攻撃も。佐久田は空中殺法プラス凶器で葛西を攻め込んだ。
フィニッシュは葛西のクロスアーム式スティミュレイション。パールハーバー・スプラッシュから続けざまに決めた。印象的だったのは両者の笑顔だ。血を流し合いながら笑う、その狂気。しかし本当に清々しくも見える。楽しくてたまらないという感じだ。試合後の葛西は佐久田に言った。
「いい刺激をありがとう」
正岡と杉浦には「ゾッとするような凄味」があった
この大会、メインイベントではKING of FREEDOM WORLD王座をかけて正岡大介と杉浦透が対戦している。両者は愛知のローカル団体からの先輩と後輩。首都圏ビッグマッチでのタイトル戦は感慨深いものだった。お互いが認め合っているからこそ闘いたい。それがプロレスラーというものだし、デスマッチも同じだ。
この試合はノーキャンバス戦として行なわれた。マット、その上を覆うカバーを外し、木の板がむき出し。受身一つで大ダメージという試合だ。その上でイス、ハンマーなど凶器も使う。クライマックスは挑戦者・杉浦の一撃。セコンドに板すらも外させ、穴が空いた状態にして自分の体ごと正岡を投げる。どこにかといったら、リング下のフロア部分だ。
観客には見えないところに落ち、そこから這い上がってくる2人の姿には、ゾッとするような凄味があった。これだけの攻撃を受けてなお、正岡はムーンサルト・ダブルニードロップで逆転勝利。ベルトを守った先輩＝チャンピオンは杉浦に「お前みたいな後輩がいてくれてよかった。プロレスに運なんてないと思ってたけど、俺の運が良かったのはお前がこんなに強く育ってくれたことだ」と語りかけている。血だるまの姿なのだが、やはりその光景は清々しい。
