球体とリズムBACK NUMBER
「ほとんど監督」な長谷部誠38歳の緊急出動、「カマダはラブリー」英紙絶賛の鎌田大地も…“小野伸二以来のEL制覇”での仕事人ぶり
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2022/05/19 17:10
EL制覇を成し遂げたフランクフルトの鎌田大地と長谷部誠
セルビア代表で日本人コーチが指導する名手の技
ただしフランクフルトの左サイドには、もうひとり、注意すべき選手がいる──背番号10をまとうウイングバック、フィリップ・コスティッチだ。
今年のW杯に出場するセルビア代表で彼を指導する喜熨斗勝史コーチが、「本当に成熟した選手で、技術も労力もトップクラス」と称えるレフティーは、守備時には大外で対峙するジェームス・タバーニア──ライトバックにして今大会のチーム得点王──を封じ、攻撃に転じれば、迫力満点の突進と精度の高い強烈なキックで際どいシーンを演出した。
一方、レンジャーズはシーズン途中にスティーブン・ジェラードから指揮権を引き継いだジョバンニ・ファン・ブロンクホルスト監督が策を講じ、本来はウイングやトップ下のジョー・アリボを前線中央に配置し、これが奏功。スコアレスで迎えた後半12分、味方CBが頭で跳ね返したこぼれ球の処理を相手が誤ると、独走してGKとの1対1を制して、レンジャーズが先制した。
失点後、即座に長谷部誠が投入されると……
するとフランクフルトのオリバー・グラスナー監督は即座に、失点に関与したCBトゥタを長谷部誠と交代させる。
ブンデスリーガ最年長の38歳の元日本代表主将は、この難しい状況にもまったく動じることなく、全体に指示を出し、自らも身を挺して要所を締めた。
「ほとんど監督みたい」
戦前に行われたUEFA公式の対談で、鎌田は長谷部についてこう評していたように――まさしくその姿はピッチ上の指揮官だった。
長谷部の投入もあって落ち着きを取り戻したフランクフルトは、得意のハイプレスで徐々にペースを掴んでいく。鎌田が「大学の授業のよう」と印象を語っていたグラスナー監督の指導によって築かれた現代的な守備だ。
失点の10分後には高い位置でボールを奪い、鎌田がループシュートを狙ったが、惜しくもネットの上に。しかしその2分後には、再び左サイドから攻略し、同点ゴール。コスティッチが対面のスコット・ライトを突破せずに左足を振ると、ボールは相手の股間を鋭く抜けてゴール前に届き、ラファエル・ボレがニアサイドで合わせてネットを揺らした。
優勝候補ではないチーム同士の決勝だったが、クオリティーも緊張感も高く、延長戦でも決定機がつくられた。それらをどちらも集中して守り抜き、PK戦でもハイレベルな攻防が続いた。