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「若いのにAIのテクニックばかり学んでていいのか」“NBAフリーク棋士”が最先端バスケや藤井聡太・渡辺明に感じる凄みとは 

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北野新太

北野新太Arata Kitano

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posted2022/03/26 17:02

「若いのにAIのテクニックばかり学んでていいのか」“NBAフリーク棋士”が最先端バスケや藤井聡太・渡辺明に感じる凄みとは<Number Web> photograph by Arata Kitano

デビュー直後の連勝記録で藤井聡太四段(当時)が注目されていた頃。増田康宏六段も盤面を挟んで戦った

「今の時代だからこそ、読みの力を鍛える方がいいかもしれない、と思うようになりました。渡辺明先生(名人・棋王)のように、読みの力で長い時代を築いてきた方がAIに対してアドバイスをもらうくらいのバランスが理想だと思います。自分たちのような世代はまだ若いのにAIのテクニックばかりを学んでていいのか、それでこれから勝てるのか、という疑問は正直あります。

 100局に1局くらいは模範解答が全て頭に入っていることで勝てる将棋もありますけど、覚えて勝てるほど将棋は簡単じゃない。分岐していく中で考えることが強さなんです。AIとはうまい付き合い方を発見しないといけない。合理性に人の目を融合させる方法を考えないと厳しくなると思います。例えば、佐藤会長(日本将棋連盟会長・佐藤康光九段)はAI的にはあり得ない将棋を指してA級棋士で在り続け、他棋戦でも勝ちまくっている。正直、あれ? と思いますよ。独創性と読みの力で勝ってしまうんですね。人間の力って凄いなと思える模範のような存在だと思います」

――最後に、もうちょっとだけNBAの話を。好きな選手の基準ってあります?

「僕にとっては、まず第一に『率直な発言をする選手』なんです。以前読んだポール・ピアース(00年代にセルティックスで活躍した殿堂入りスモールフォワード。08年ファイナルMVP)のインタビューなんて最高でした。『頑張ってたのはオレとケビン(・ガーネット)だけだった。内実はヒドくて、他のヤツらはやる気なんてなかった。ベテランは練習をしたがらないから、オレとケビンがケツを叩いてやらせてたんだ』とか。最高ですよね」

――なかなか日本のアスリートにはできない発言(笑)。

「だから、ロバート・オーリー(90~00年代に3チームを計7度のチャンピオンリングに導いた優勝請負人。プレイオフの土壇場で再三にわたって劇的なブザービーターを沈め『ビッグショット・ロブ』の異名を誇った)とかも大好きなんですよ。彼の伝記のようなものをネットで読んだことがあるんです。

 やはり率直な物言いが好きでした。『チームに仲の良さなんて関係ない。レイカーズなんて全然仲良くなかったし、フィル・ジャクソン(ヘッドコーチ)とは1回しか話したことない。ロケッツから放出された時、君は得点力がない、みたいなことを言われてイラついた。あれがビッグショットの始まりだったんだ』みたいな。あのメンタルを見習いたいです。終盤の一分将棋で難解な詰みを正確に読み切るようなものですからね」

僕も将棋に対してプロでありたい

――ただのフリークではなくて、どこか学ぶ感覚もある中で楽しんでいるんですね。

「NBA選手の発言に影響を受けたりもしますけど、僕も将棋に対してプロでありたいと思っています。勝てばお金をもらえるから頑張りますけど、勝っても負けても同じなら頑張らないです。遊びではやりたくないんです。よく友達に『将棋、教えてよ』とか言われますけど、一応こちらはプロなので『気分じゃないんだ』と断るようにしています。自分は今年、もっと自分自身を改善できると思っています。もっと勝てると思っているし、勝ちたいと思ってる」
<前編から続く>

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「今の藤井聡太さんはステフィン・カリーのような…」 NBA愛がガチな棋士・増田康宏六段が語る“現代バスケと将棋の共通点”

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