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将棋PRESSBACK NUMBER
「若いのにAIのテクニックばかり学んでていいのか」“NBAフリーク棋士”が最先端バスケや藤井聡太・渡辺明に感じる凄みとは
text by
北野新太Arata Kitano
photograph byArata Kitano
posted2022/03/26 17:02
デビュー直後の連勝記録で藤井聡太四段(当時)が注目されていた頃。増田康宏六段も盤面を挟んで戦った
「ややズレるかもしれませんけど、藤井さんってちょっとマイケル・ジョーダンに似ているところがあると思うんです。ネットフリックスで『ラストダンス』(米国スポーツ史上最高の英雄がブルズで過ごした最後のシーズンを追ったドキュメンタリー)を観て思った共通点は、まずものすごい負けず嫌いだということ。ジョーダンが個人タイトルもチームの優勝も重ねたように、藤井さんもあれだけタイトルを獲っているんですから、普通なら集中力を欠いてしまう対局もあるはずですけど、どんな将棋でも全精力を注いで指している。
棋士は分かるんです。緩んでる、緩んでない、ということは。リーグ戦で消化試合のようになった対局で形勢を損ねても、何としてでも勝とうとする。実際に粘り倒して逆転してしまうんです。少し緩んだって誰も責めたりできないような将棋でも。ジョーダンも同じですよね。挑まれれば、勝負をけしかけられれば対抗する。現状に満足しない姿勢は、やはり理想的だと思います」
――少しでも近づいていくための行為が規律を身に付けることならば、増田さんが実践していることってどんなことなんでしょうか。
「最低限でもできることはしなきゃと思うので、自分は週2回ジムでワークアウトをして身体を鍛えています。昔は筋肉量を求めていましたけど、最近はバランスを重視しています。身長は178センチで……あ、そうだ、なんか『将棋年鑑』のプロフィールに書いたら、棋士仲間から『ちょっとおかしいでしょ!』とか『ちょっと盛ってない?』とか言われましたけど、ホントに178あります(笑)。で、体重は68キロでキープしています。ちょっとでも重くなると集中力が削がれる感覚があります」
藤井さんは他の棋士と同じ方法でAIを使っているのだろうか
――棋士って長時間の対局に臨むからフィジカルを重視する人も意外と多いですよね。
「逆に言うと、今の将棋界はAI研究の影響でテクニカルになりすぎていると思うんです。今のペースでコンピュータに依存していくと、読みの力が衰えてしまう時代になっていくのでは、とも思います。導入した頃は、局面における最善手が何かを調べたりするくらいでしたけど、今はもう何でもかんでもAIが教えてくれるようになって、正直どうなのかなと思うこともあります。
技術的な進化によって競技が変わっていくということは必然ですけど、棋士の読む力は衰えてしまっているのではないか、自分で正解を導き出す力は弱くなっているんじゃないかと思うことはあります。自分自身、長い持ち時間の将棋で以前より深く手を読めなくなっているような感覚に陥る時もあります。局面における最善手にはものすごく強くなっても、全く別の局面が現れた時の読む力が弱くなっているんじゃないかというような感覚です」
――AIとの距離感は現代将棋、あるいは現代を生きる棋士にとって大いなるテーマです。