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将棋PRESSBACK NUMBER
「若いのにAIのテクニックばかり学んでていいのか」“NBAフリーク棋士”が最先端バスケや藤井聡太・渡辺明に感じる凄みとは
text by
北野新太Arata Kitano
photograph byArata Kitano
posted2022/03/26 17:02
デビュー直後の連勝記録で藤井聡太四段(当時)が注目されていた頃。増田康宏六段も盤面を挟んで戦った
「だから、藤井さんも他の棋士と同じような方法でAIを使っているのだろうか、と疑問に思う時があるんですよ。藤井さんは未知の局面でも正解を導き出せる。読みの力が凄いから、としか言いようがないのかもしれませんけど、そもそもAIの使い方が普通の人とは違うんじゃないかと思ったりもします。実際、藤井さんは対局でとにかく時間いっぱいまで考える。あの姿を見ると、なんかちょっと普通とは違うのではないかと思うんです」
データのみを偏重するのではなく、人の目を通して
――パフォーマンスの全体的な進化に、自分自身をどうフィットさせていくか、という意味では現代NBAにも結びつく部分でもある。
「例えばセンターの役割も以前とは異なるものになってきました。90年代以前のように、ゴール下でポストアップしてボールをもらってワンオンワンに挑むセンターは激減してますよね。むしろ、シュートレンジを広げて3ポイントを打つようなビッグマンが増えているんです。
でも、ダリル・モーリーは言っています。『現代にシャキール・オニールがいたら、1試合に50回くらいポストアップさせてボールを持たせる。なぜなら、スコアする確率が高いから。現代にシャックを抑えられるセンターはいない。今、ポストアップさせないのは、確率が低くなるからなんだ。ワンオンワンでスコアできるパワーなり技術なりを持った選手が減ったんだ』というようなことを。
パワーならシャック、技術ならアキーム・オラジュワン(90年代にロケッツを連覇に導いた名センター。ポストアップからの多彩なムーブは『ドリームシェイク』と称された)とかに言えることだと思うんですけど、そういう選手がいなくなっているのかもしれません。それがいいことなのか悪いことなのかさえ、よく分からないんですけど」
――さっきの「読みの力」の減退と同じことですよね。
「データ重視の考え方はNBAに革新をもたらしましたけど、今はデータのみに偏重するのではなく、人の目を通したスカウティングも重要だという議論に変わりつつあるみたいです。昨年、サンズのクリス・ポールはプレイオフのカンファレンスセミファイナルでナゲッツと戦った時、ジャベール・マギーの懸命なプレイが印象に残ったと語っています。
で、シーズンが終わった後、フロントに『彼は最後まで諦めずプレイする』と獲得を進言したようなんですね。マギーは今、サンズでリザーブながらいい働きを見せています。データのみに頼らず、考える力がないと取り残されるという思想はスポーツ界のトレンドになっていると思います」
覚えて勝てるほど将棋は簡単じゃない
――同じように、増田さんの将棋への考え方も変化している。