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他球団の主力選手から告白された「ヤクルトに移籍したい…」スワローズが“業界内”で愛される理由が一瞬で分かる7人の集合写真
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byKentaro Kase
posted2022/03/19 11:03
Numberでは1992年以来、30年ぶりとなるヤクルト特集! 奥川恭伸投手、山田哲人内野手、高津臣吾監督、村上宗隆内野手(左から)
「みんな」という言葉を、高津監督はよく口にする。みんなでつなぐ。みんなで粘る。みんなで共有する。みんなで戦う――。もともと巨大戦力は持ち合わせておらず、常勝軍団でもない。だからこそ、連帯感やチームワークなしに勝ち抜けないことを、みんなが知っている。煌めく才能を擁しながらも、個々のスター選手というより、「チーム」としての魅力が際立つのは、スワローズならではの良さだ。42歳の石川から20歳の奥川まで、指揮官と楽しそうに「V字」を作る姿を見て、あらためてそう感じた。
「ファミリー球団」。ヤクルトスワローズを語るとき、このキーワードが必ず登場する。親会社が「健康」や「家族」をターゲットにする食品会社だけに、その“社風”はいたって大らかだ。球団経営もビジネスライクではなく、チームの雰囲気は常に明るい。2012年から15年まで、スポーツ紙のヤクルト担当記者をしていた頃は、その美点を身近で感じた。他球団ではありがちなチーム内の煩わしい派閥や、特定のスター選手が“お山の大将”と化したりすることがなく、人間関係の温度感が絶妙なのだ。
本気で告白された「ヤクルトに移籍したい」
ヤクルト担当を離れてからは、逆にその“業界内人気”を実感した。他球団の選手を取材する際、「元ヤクルト担当」と名乗ると、「チームの雰囲気が楽しそう」、「自由に野球ができそう」と言われること多々。主力級の選手から本気で「ヤクルトに移籍したい」と打ち明けられたことも一度や二度ではなかった。選手層が厚くないために試合に出るチャンスを得やすいという理由もあるだろうが、職場環境のイメージは間違いなく業界ナンバーワンだろう。
他球団に移籍した選手からは、こんな話を聞いた。試合前、ヤクルト時代と同じ感覚で、対戦相手のクセや攻略法などを同僚に教えると、ひどく驚かれたという。たとえチームメートでもライバル同士なのだから、情報を教え合う必要などないと思っていた、と。「別のチームに行ってみて初めて、ヤクルトの野球の緻密さが分かった」――。特に攻撃面ではカウント別に細かい決まり事があり、前後の打者や走者を含めて揺さぶりをかけ攻略する。野村克也監督時代の「ID野球」とは、「弱者の野球」でもある。個々の能力ではなく、「みんな」で「強者」に立ち向かうという意識は、今なおチームに根付いている。
最新号に掲載されている生島淳氏による高津監督のインタビューには、このDNAを開花させた昨季から、さらに進化させていく決意がこんな言葉で明かされている。
「選手の働きを生かすも殺すも、僕次第。(略)今年はより繊細に点を取る、点を防ぐために適切な指示、起用、戦略を採っていくつもりです」
「強いスワローズを作るには、選手、コーチがやりたい野球を理解して、統一、一丸、融合といった連係を最大のテーマにしていく」
「みんな」で掴むV2へ――。25日、いよいよ開幕する新シーズンで、再び笑顔の輪が見られるだろうか。
Number最新号「今年も絶対、スワローズ」では、高津臣吾監督インタビューの他、村上宗隆×奥川恭伸のWインタビュー、山田哲人など主力選手の肉声や野村克也監督、関根潤三監督時代のノンフィクション記事が満載です。ぜひご覧ください。