スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
「最初のプレゼンで少しムッとされた」のに… 日本企業がバルサの聖地改築コンペに勝てた“いい意味での裏切り”とは
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byDaisuke Nakashima
posted2022/03/21 11:01
特別にカンプノウで撮影した日建設計のメンバー。左から風間宏樹さん、野村映之さん、伊庭野大輔さん
野村「例えばBIGと組んでいたIDOMはビルバオの会社で、アスレティック・ビルバオのサンマメス・スタジアムを設計しています。あとPOPULOUSはアーセナルのエミレーツ・スタジアム、アメリカのメジャーリーグの球場、NFLのスタジアムなどを手がけているスポーツ施設専門の設計事務所です」
――ずばりコンペの勝因は。
伊庭野「元々、FCBには相談役の建築家がおり、その方がコンペの概要、ベースの建築案を作っていました。それがオリジナルプロポーザルと言われているもので、スタジアム全体には雨風を避けるための外装の覆いがかかった計画になっていました。また、歩行者用の大きな人工地盤のデッキを作って、それによって試合前と試合後の大量の人の流れを処理したい、という計画でした。
でも今回の計画条件は、9万9000人の収容人数を10万5000人にすること。最初は10万人超なんてすごいなって思いましたが、引き算すると6000人しか増えていない。それで『こんな大げさな人工地盤作らなくていいのでは?』と冷静になりました。その時はコンペの中間地点くらいで、予算があまりないからコストを安くしてほしいという話をFCB側からされていた時期でもあって。そうなると、こんな人工地盤を作るとお金もかかるし、やめてしまった方がいいのでは? と伝えたのがバルサに対する最初の提案でした。それをプレゼンしたところ、少しムッとされたのですが(笑)」
このコンペの特殊な部分って……
野村「『本当にできるのだったら証拠を持ってこい』と言われて。うちはエンジニアリング部門もあるので自分たちで根拠を提示することもできたのですが、FCB側もイギリスのコンサルティング会社をスペシャリストとして起用していて、その人たちにコンタクトを取っていいから、本当にできるかどうか人の流動シミュレーションで検証してみろと言われました。そこにお願いをしたところ、いけるという検証結果が出て、それをFCBに説明したら『じゃあこれでいってみたらどう?』ということになりました。
こういうコンペの時は、質問をまとめて出すのが普通です。最初の質問は8チームがみんな出して、それをコンフィデンシャルとしない限りはコンペの全参加者に公表されるのですが、その中に『人工地盤を中止してもいいのか?』という質問があり、その時のFCB側の回答はノーでした。それでも提案をしたというところで、他のチームとの差別化が図れたのではないかと」