「女子ジャンプは、今まで先輩たちが土台を作ってくれて今があると思うんです。でも、まだまだメジャーなスポーツじゃないと思います。もっと発展させていくためには、メディアの力を借りないと。世間にはまだまだ認知されていないので、雑誌や新聞、テレビで取り上げてくれればくれるほど、女子ジャンプが有名になる。だから、記者会見や囲み取材はきちんと受けなきゃいけないと思います」

　ただ、そんな高梨も空港で待ち受ける多数のカメラには抵抗があるという。

「空港であんまり人がたまっていたら、ほかの利用している人に迷惑だと思います。そういうところをもっと考えていただければ、と思うんです。どこかの局はカメラが3台、ほかの局は4台、5台と来ていることがありますが、そういう方法じゃなく、各局ごとに1台と決めてしまえばあんなにたまることはないと思うんですけれど」

　自分のことより周囲を優先するのである。

「え、だってやっぱり迷惑をかけるじゃないですか。ほかの人の迷惑にならないやり方であれば、別にいいんです」

ソチ五輪で取材に応じる高梨　©Asami Enomoto/JMPA

　両手を膝にそろえてそう答える姿は、うわついたところのない素朴な16歳だった。

「あっという間だった」というシーズンは終わり、いよいよ五輪シーズンを迎える。女子ジャンプの記念すべき1回目のオリンピックである。ソチ五輪が近づけば、注目はさらに高まっていくだろう。ましてやスキー競技は2大会続けてメダルを逃しているだけに、高梨への期待も弥が上にも大きくなるはずだ。取り巻く環境に困惑させられることがあってもおかしくはない。

「1mでも先へ」「浅田真央さんが好きです」

　だが、高梨には揺るがぬものがある。「1mでも先へ飛びたい」という思いだ。誰よりも遠くへ飛びたいという情熱が核にあるから、まっすぐに進んでくることができた。周囲がどう変化しようと、その思いはきっと変わることはないだろう。

　高梨には、憧れの人がいると言う。

「浅田真央さんが好きです。お手本というか、浅田真央選手の考え方がすごく参考になります。やっぱり、常にすごくきれいでおしとやかというか、物腰も柔らかくて、でも芯がしっかりしているところとかがテレビで見ていても見受けられるというか。そういうところをすごく尊敬します」

バンクーバー五輪の浅田。高梨にとって憧れの存在だったという　©JMPA

　浅田も中学生の頃から国際大会で活躍し、脚光を浴び続けてきた選手だけに、自身と重ねるところもあるのかもしれない。

　憧れの人とそろって足を踏み入れることになるかもしれないオリンピックへ、その歩みはきっと止まることはない。

《Sports Graphic Number 2013/3/30臨時増刊号『高梨沙羅 「1mでも先へ飛びたい」』より》

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