「死ぬ気で闘う」を体現した堀口恭司との対戦

　勝っても負けてもKO。それが現役時代の石渡のイメージだった。

「まあ、負けっぷりも勝ちっぷりもよかったと思いますね。RIZINの榊原（信行）さんはいつも『勝ちを守るような試合はしないでほしい』と言っていたけど、その部分には応えられたと思います」

　案の定、石渡は記録より記憶に残るファイターになった。試合前、「命をかけて闘う」と決意表明をする選手はあまたいるが、石渡の場合こちらが「もうわかったから」と制したくなるほど、闘いに対する覚悟を具現化するファイトを見せてくれた。

　石渡は「みんな普通に『死ぬ気で闘う』とか口にするけど、本当はそう思っていないだろうなと薄々感じていました」と思い返す。

「でも俺は意識を断たれない限りは闘う気持ちがあったし、それが当たり前だと思っていた。終わってみたら、自分が少数派であることに気づきました」

　とりわけ堀口恭司との2度の対戦は、何かの拍子に万が一のことが起こってもおかしくないと思えるほど激しかった。RIZINで実現した堀口との2戦目も含め、試合中に石渡は2回も意識を完全に失っている。

「堀口との一戦はトーナメント決勝だったので、あの日2試合目だった。1試合だけでも命が削れるくらいなので、『そりゃ意識も飛ぶわ』と納得しました」

2017年大晦日、RIZINバンタム級トーナメントの決勝で堀口恭司と4年半ぶりに対戦。壮絶なKO負けを喫し、リベンジを果たすことはできなかった　©RIZIN FF

　2017年10月15日に、パンクラスの王者としてRIZINのリングに初めて上がったときの意識も高かった。

「よくRIZINに出ることを目標に挙げている選手がいるけど、僕は出させてもらっているのではなく、出てやっているんだという気概を持っていた。出ることがゴールの人は『RIZINさんは僕に何をしてくれるんですか』という気持ちを持っている。対照的に僕は、自分が出ることで団体に恩恵を与えられる存在になろうと思っていた。そういうこともあって生意気に思われてしまったのか、榊原さんは僕のことを当初とっつきにくい奴と思っていたみたいですね」

長いケガとの戦い…ベンチプレスの重量は半分以下に

　2017年の大晦日にRIZINで堀口と拳を交わして以降は古傷の治療もあり、復帰までに1年7カ月もの長い休養が必要だった。いや、もっと正確にいえば、2014年以降は対戦相手より先にケガと向き合わなければいけなかった。

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