とはいえ、現実は厳しい。10月9日の中日戦（横浜スタジアム）で、伊勢は1点リードのセーブシチュエーションで再びマウンドに立ったが、3連打を浴び1アウトも取れぬままマウンドを降り、3失点で負け投手となってしまう。

　かねてから憧れていたゲームを締めくくるマウンドは、想像を絶する苛烈な環境であり、普段とは違う自分を露呈してしまう異次元の場所だった。

「あれだけ自分でもやりたいと言ってオープン戦などでも経験させてもらい、やってやろうって思いがめちゃくちゃ強かったのに、いざマウンドに立つと地に足が着いていませんでした。2回目はあっさり点を取られてしまいましたし、経験したことがない不思議な難しさがありました……」

　しかしこの稀有な経験は、若いリリーバーを次の段階へ歩ませることになる。伊勢はここで落ち込み気勢を削がれることなく、その後6試合に登板し、わずか2安打0失点でシーズンを終えている。とくに10月22日の中日戦（横浜スタジアム）では、4‐1のリードで迎えた8回表、1アウト満塁のピンチでマウンドに立つと後続を三振とファウルフライに切って取り見事火消しに成功。試合後「9回を投げさせてもらったことで、まわりが見えるようになった」と伊勢はクローザーの経験がプラスになったと語っている。失敗を糧にできるかできないかは、アスリートにとって大切な資質だ。

セットアッパーとしての武器

　あらためて伊勢は9回を投げるために、自分になにが必要なのかを語る。

「一番に理解できたのは、自分のなかでひとつ安心できる材料が必要なポジションだということです。球種もそうですけど、例えば阪神のスアレス投手ならばパワー、広島の栗林（良吏）さんならコントロール。僕が急に160キロを超えるボールを投げるのは難しいので、練習次第で磨くことのできるコントロールという部分をしっかりと見据えていきたい」

　シュートライズする独特のストレートが武器の伊勢ではあるが、シーズンの終わりには新たな自分を発見したという。伊勢はデビューから2年間、左打者に対して手数が足りず窮屈なピッチングになってしまうのが課題だったが、それを払拭するヒントに出会えた。カギとなったのは後半戦で切れを取り戻したスライダーだった。

　昨季最終戦となった10月28日の広島戦（マツダスタジアム）、ビハインドの8回裏に伊勢はマウンドに立った。バッテリーを組むのはシーズン終盤に初昇格した3年目の益子京右だった。

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