Sports Graphic Number SpecialBACK NUMBER

[「初タイトルの一手」を語る(4)]糸谷哲郎「大逆転を呼んだ銀の城」

posted2022/01/22 07:06

 
[「初タイトルの一手」を語る(4)]糸谷哲郎「大逆転を呼んだ銀の城」<Number Web> photograph by Hirofumi Kamaya

text by

大川慎太郎

大川慎太郎Shintaro Okawa

PROFILE

photograph by

Hirofumi Kamaya

驚異の早見え早指しで知られる怪物が初の大舞台を踏んだ'14年の竜王戦。頂に導いたのは第5局、玉を囲む異形の銀4枚だった。

 糸谷哲郎は最初から規格外だった。

 2006年のプロ入り初戦で、後にA級八段になる橋本崇載を撃破した。橋本が「強すぎる、怪物だ」とうめいたことから、「怪物」と呼ばれるようになった。デビュー戦で異名がついた棋士は糸谷が唯一だ。

 怪物は盤上で暴れ回った。超早指しで、指した相手の手が引っ込まないうちにバチリ。勢い余って玉を動かす位置を間違えて反則負けを喫したこともある。頭の回転が速すぎるゆえのそそっかしさがあり、序盤でしばしば形勢を損ねたが、手練手管の粘りと勝負術で逆転勝ちを連発した。人まねを嫌い、「糸谷流右玉」というオリジナリティに溢れた戦法で高勝率を挙げた。デビュー1年目は全棋士中1位となる14連勝を記録し、将棋大賞の連勝賞・新人賞を同時受賞。それだけ活躍しながら勉学にも励み、大阪大学文学部に現役で合格した。

 ファンの度肝を抜いた1年目のあと、糸谷のニュースは減った。勝率は高いが大きな結果に恵まれない。雌伏の時だったのだ。

 怪物が大舞台に初めて姿を見せたのは2014年だった。棋界最高峰の竜王戦で挑戦者決定戦に進出。相手は、竜王をあと1期獲得すれば永世七冠の資格を得る羽生善治だった。「自分以外は皆、羽生先生の勝利を望んでいる状況でした。なので、ある意味で気楽というか、楽しくなってきたんです」と糸谷は微笑みながら振り返った。

こちらは雑誌『Number』の掲載記事です。
NumberWeb有料会員になると続きをお読みいただけます。

残り: 1983文字

NumberWeb有料会員(月額330円[税込])は、この記事だけでなく
NumberWeb内のすべての有料記事をお読みいただけます。

関連記事

#糸谷哲郎
#森内俊之

ゲームの前後の記事

ページトップ