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[再出発へのエール]豊島将之「失意の先にスマイルを」
posted2022/01/21 07:06
text by
北野新太Arata Kitano
photograph by
Yomiuri Shimbun
十九番勝負と謳われた長い連戦の果てに、残ったのは無冠転落という厳しい現実だった。しかし、幾度も敗北を乗り越えてきた男は胸の内で捲土重来を期している。
長すぎた夜の果てを、豊島将之はどんな思いで見つめたのだろう。戦い続けた右手で駒台に触れ、投了を告げた後に。
クリスマスイヴに行われた渡辺明との竜王戦1組ランキング戦。2021年最後の一局だった。
苦しかった一年を象徴するように、耐え忍ぶ時間が長く続いていく将棋になった。
夜戦に入って敗勢に陥った豊島だったが、延命の糸口を探し続けた。「無倦」。竜王を失って無冠になった11月に彼が残した揮毫を思った。倦むこと無く、諦めること無く。
「結果は出ていないですけど、諦めずにやっていくしかないので」
互いの王将が敵陣の深部へと逃れて捕まえられない相入玉の死闘に。午後11時17分、215手で持将棋が成立した。
将棋は常に決着を求める。同47分にスタートした指し直し局は新しい日付に突入し、両者相譲らずの激戦に。最後に緩い受けの手を指した豊島が敗れ去った。
終局は25日午前2時57分。街が華やいだ聖なる夜も終わろうとしていた。15時間、計322手を戦っても、残ったのは苦い敗北だけだった。
真夜中、私は3年前のクリスマスを思い出していた。'18年、豊島は羽生善治から棋聖を、菅井竜也から王位を、それぞれ最終局に至る勝負の末に奪っていた。タイトル初挑戦から8年。ようやく頂点に辿り着いた余韻の季節だった。東京でクリスマスイベントに出席した豊島は、満員御礼のファンに囲まれた壇上でサンタクロースの帽子を被っていた。