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プロ野球PRESSBACK NUMBER
「泣き虫で甘えん坊だった、あの宗が」今季大ブレイク・オリックス宗佑磨の“原風景”…恩師「信じられない。でも、夢あるよね」
posted2021/12/27 17:06
text by
樫本ゆきYuki Kashimoto
photograph by
Sankei Shimbun
横浜隼人高の監督室。12球団のカレンダーが並ぶ壁の中に、残り1枚となった12月のオリックスカレンダーが目に入った。その写真の顔触れに「えっ!?」と思わず驚いてしまい、でも、すぐに「そうだな……」と気持ちを改めた。
12月の“ラインナップ”は大下誠一郎、西浦颯大、中川圭太、杉本裕太郎、そして宗佑磨の計5人。球団の顔である山本由伸、吉田正尚、山岡泰輔の3人が1人1枚の扱いなのに対し、12月のそれは、5人で1枚。急ぎ足で詰め込んだスイーツのアソートセットのような趣だった。
「この時は一緒くたですよ、一緒くた!」。宗の恩師である水谷哲也監督が笑っている。
「でもそんな子がゴールデングラブ賞ですからね」。目尻のシワをさらに深くさせてほほ笑んだ。
そのとおりだろう。最終月のカレンダーに、5人まとめて載るような選手が、今年のゴールデン・グラブ賞、ベストナインの2冠に輝いたのだから。
当時副部長で現在は横浜隼人中学校(軟式)の監督を務める佐野辰徳教諭も、隣でうなずきながら続ける。
「肩の強さ、足の速さ、バッティング。どれをとってもプロに行かせられるレベルだと監督と話していましたが、守備はとんでもなく下手だったので、最初は外野手からのスタートだったんです」
「そんな宗が、信じられない。でも、夢あるよね」と二人は言った。
中学生の宗を見た当時部長「ぜひうちに学校見学に」
当時部長だった榊原秀樹教諭(現・神奈川県高校野球連盟専務理事)は、鎌倉市立玉縄中野球部員だった宗に初めて会った時の印象が忘れられない。
「車から降りてグラウンドに行ったら、一人で壁に寄りかかって水を飲んでいる野球部員がいた。『先生はいる?』と聞いたら『あの人デス』と。きゃしゃで目がクリッとした、かわいらしい少年だった」
その少年が宗だった。1カ所打撃では、のちに横浜高校で背番号11をつけることになる小田隼右のスライダーをバチーンと右中間に運び二塁打に。聞くと50m走のタイムは驚異の5秒8だと言う。進路は決まっていないが、横浜隼人に興味を持っていると知り、一瞬で運命を感じた。
「『ぜひうちに学校見学に来てください』と言いました。母一人、子一人だったので、家から通えるウチが合ってるんじゃないかと思ったのです。軟式野球部の野手でもプロで活躍できるんだってことを証明してほしいなと願っていましたが、まさかこんなに活躍してくれるとは。今や我が校の職員、全生徒の誇りです」
足を棒にして県内の中学チームを回った榊原教諭がつかんだ良縁。スマホの待ち受け画面を、オリックスの歓喜の輪の中心にいる宗の画像に変更し、毎日眺めては活力をもらっている。