殺気立っていたのは明徳の応援席も同じだった。県大会のときは控え投手としてベンチ入りしていた北村裕二は言う。

「みんな興奮してきて、俺らもメガフォン投げるか、って。向こうが誰かひとりでもネットを越えたら、俺らも行くぞ、って感じでしたね。なんか、戦争みたいな気持ちになってました。でも、そんな中、松井はずっと感情殺してたじゃないですか。すっげー、って思いましたね。俺らはほんとにガキだなあーって」

松井「次に打って欲しいって、神様にお願いしてました」

　その間、一塁ベース上の松井は、気を付けの姿勢をとり、うつむいたまましばらく目を閉じていた。

「ただ、次に打って欲しいって祈ってましたね。まあ、月岩にお願いするよりも、神様にお願いしてましたけどね。ハハハハハハ。あいつ、最後の方、顔、真っ青でしたから。顔に表情がなかったですもん」

松井秀喜（2013年撮影） ©Naoya Sanuki

　そんな松井のいちばん近くにいた一塁手の岡村は、「瞑想してるのかな」と思っていたという。

「目、つむってたでしょう？　やっぱ松井は違うなーって。ただ、四打席目あたりから、かなりきてましたね。イライラっと」

　松井の腹の中は本当のところはどうだったのだろうか。

　これが松井の心の声だったのだ、そう思った瞬間がある。たまたま佐賀西高校の取材に訪れたときのことだ。監督の内田努も、高校時代、佐賀県大会の三回戦で四打席敬遠された経験があった。

「なんで打たせてくれんか！　って。この日のために何千回、何万回スイングしてきたと思うか！　って、心の中で叫んでましたよ。大学で野球をやったのも、このときの失われた四打席を埋めたいと思ったからですしね」

　松井の中にも、それに似た思いがあったのではないだろうか。

　それこそ、中学生のとき、相手をにらみつけ、バットを叩きつけたときと同じような感情が――。

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