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「タイガー・クイーンの涙を見た」佐山聡考案の“新技”で勝利も…彩羽匠戦で崩れかけた女性版タイガーマスクの“謎”
posted2021/10/28 17:01
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
覆面の下の目は泣いていた、と彩羽匠は言う。
10月21日のストロングスタイルプロレス。彩羽は“女性版タイガーマスク”タイガー・クイーンと初対戦した。
佐山とジャガーが育てた“謎の覆面レスラー”
タイガー・クイーンは今年7月にデビュー。初代タイガーマスクである佐山聡、女子プロレス界のレジェンド・ジャガー横田が育てた“謎の覆面レスラー”だ。ジャガーはその動きを「初代タイガーのクローン」と称している。タイガースープレックスなどの技だけでなく相手と対峙した際のステップ、入場時のコーナーに登ってのポーズまで含めて見事なコピーぶり。オールドファンには懐かしく、なおかつ“女子”という圧倒的な新鮮さもある。
タイガー・クイーンが単なる“企画もの”のレスラーではないことは、試合内容だけでなく闘ってきた相手からも分かる。初戦は“デスマッチ・アマゾネス”山下りなと。男子とも流血戦を展開するパワーファイターにいきなり勝利したインパクトは大きかった。
9月の2戦目では、ディアナのシングルベルトを巻いたこともある佐藤綾子に勝利している。3戦目のタッグマッチ、西村修と組んでのジャガー横田&越中詩郎戦は初の黒星。これは西村がフォールされてのものだったから、クイーン自身は“無傷”だった。
佐藤戦ではコーナーから場外へのラ・ケブラーダ、ぶっこ抜きジャーマンを初公開。クイーンは徐々にその“引き出し”をあけていった。またジャガー、越中との対戦は大きな経験値となったはずだ。他の誰とも違う特異なキャリアと言っていい。
「スタートの位置が高いので、そこから下げられない。普通の選手は徐々に上がっていくんですけど。そこは大変だと思います」
師匠であるジャガーはそう語っている。佐山は大会に向けた記者会見でクイーンの道場での努力に触れると「昔の自分を見るよう」とも。それは注目される中で勝ち続ける難しさも含めて、ということだろう。
彩羽戦ではいきなりコーナーから場外へのラ・ケブラーダ
まして4戦目の相手が彩羽だ。長与千種率いるマーベラスのエース。この夏、負傷欠場から復帰するとスターダムで林下詩美、朱里らと名勝負を展開した。まぎれもなく、現代の女子プロレスを代表するトップ選手の1人だ。
初代タイガー=佐山とジャガーと長与という、濃厚な歴史を受け継ぐ2人の闘い。先制したのはクイーンだった。序盤、いきなりコーナーからのケブラーダ。“タイガースピン”から足を固めていくのは初代が得意とした攻撃だ。だが矢継ぎ早の得意技は、強敵相手の焦りでもあったのか。その後は彩羽の攻勢が目立った。
グラウンドでは逆エビ固めにサソリ固め。ハイキックにバックキックといった蹴りも冴える。さらにエルボーでクイーンをのけぞらせる彩羽。女子プロレスを見慣れていないであろうストロングスタイルプロレスの観客たちは、彩羽の動き、そのキレと重さに感嘆の声を漏らしていた。