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「欠点は人間の言葉を喋れないことぐらいだ」デムーロと“運命の馬”ネオユニヴァースの信頼関係はこうして生まれた
text by
並木ポラオPorao Namiki
photograph byフォトチェスナット
posted2021/11/06 11:03
前日の雨で馬場状態の悪くなった内側から抜け出す快勝劇。「外国人騎手による日本ダービー制覇」も史上初めてのことだった
だが、トレーナーがデムーロ騎手の日本行きを認めたことでコンビ継続。日本の競馬ファンも二冠馬の誕生を期待してか、単勝オッズは2・6倍の1番人気に支持した。2番人気は皐月賞2着のサクラプレジデント、3番人気は青葉賞を勝利してダービーに駒を進めてきたゼンノロブロイだった。
馬場状態は重かった日本ダービー、絶妙な進路を選択した
70回目という節目となった2003年のダービー当日の馬場状態は重。前日に少し早い台風が襲来し、競馬場に雨を降らせた影響だった。エースインザレースが作った流れは1000m通過が61秒1。逃げ馬こそ内ラチ沿いを走っていたが、重馬場で悪くなった内側を避ける人馬が多く、2番手にいたゼンノロブロイやその直後のサクラプレジデントは内ラチから遠い場所を追走する展開。最初のコーナーを13番手で通過したネオユニヴァースは、そんなガラリと空いた内側をスルスルと進出。馬場の悪い内側でもなく、尚且つ、距離ロスも最小限にする絶妙な進路を選択して最後の直線へ。
ゼンノロブロイの内側に潜り込んだネオユニヴァースは余力たっぷりの走りで抜け出しにかかる。皐月賞で接戦を演じたサクラプレジデントは前半に少し折り合いを欠いた影響か伸びはなかった。優勝争いはネオユニヴァース、そしてゼンノロブロイとザッツザプレンティの3頭に絞られると、最後にもう一度ネオユニヴァースが一伸びを見せてゼンノロブロイに半馬身の差をつけてゴール。見事に二冠達成となった。
日本競馬史上初となる「外国人騎手による日本ダービー制覇」という偉業を成し遂げたデムーロ騎手に対して、ファンからは大きな拍手が送られた。母国イタリアでもすでに大レースを制していたデムーロ騎手だが、レース後には「多くのファンに祝福してもらい、とても感激した。自国のダービーを勝ったときと同じぐらい、いやそれ以上に嬉しい」とコメントした。
「デムーロ騎手にとってネオユニヴァースとは?」
その後ネオユニヴァースはダービー直後に宝塚記念に挑戦するも、ヒシミラクルの4着。さらに秋はクラシック三冠制覇にも挑んだが、ザッツザプレンティの3着と惜敗が続いた。日本ダービー後の勝ち鞍は大阪杯(当時はGⅡ)のみだったが、デムーロ騎手のこの馬への信頼は少しも揺らぐことはなかった。