炎の一筆入魂BACK NUMBER

<12年目の戦力外通告>「今後は未定」178試合登板でカープのリーグ3連覇を支えた今村猛のプロ人生の着地点とは 

text by

前原淳

前原淳Jun Maehara

PROFILE

photograph byJIJI PHOTO

posted2021/10/16 06:01

<12年目の戦力外通告>「今後は未定」178試合登板でカープのリーグ3連覇を支えた今村猛のプロ人生の着地点とは<Number Web> photograph by JIJI PHOTO

2016年の日本シリーズ初戦で2番手として登板した今村。この年からのリーグ3連覇に大きく貢献した

 世代交代を推し進めた広島の中継ぎ陣は、今季開幕から勝ちパターンが決まらず、防御率もリーグ4位と安定していたわけではない。継投で苦しむ敗戦は何度も見てきた。球速などの数字では測れない実績ある投手が、入り込む余地がなかったようにはみえなかった。

 1人の中継ぎとしてだけでなく、ブルペンでの心構えや準備など、若返った中継ぎ陣に伝えられることもあったに違いない。

 二軍の開幕から8試合連続無失点のスタートを切った。優勝争いやクライマックスシリーズ争いのしびれる場面で投げ続けてきた投手が、二軍のマウンドで気持ちを維持するのは簡単なことではない。マウンド上で分泌される、アドレナリンの量も違う。パフォーマンスもきっと変わってくる。だからこそ、これまでのように結果で一軍昇格を掴み取ろうともがき続けてきた。

ADVERTISEMENT

 二軍でチーム2位の36試合に投げ、防御率は2.78だった。シーズン途中に昇格した投手よりも、結果を残しても一軍には呼ばれなかったという事実が、構想外を浮き彫りにした。

最後のマウンドになるのか

 もしこのまま現役を終えることになれば、9月25日に山口県岩国市にある由宇練習場で無観客で行われた、ウエスタン・リーグの中日戦のマウンドが最後だったことになる。

 ファンの前で投げられなかったこと以上に、マウンドという戦場で自分自身にケリをつけられていない気がする。第一線で戦った選手たちは自らの最期を悟り、自らの意思でユニホームを脱いできた。今村のプロとしての矜持は宙に浮いたままではないか。

「今年1年が最後だと思ってやってきた。まだやれるかなという気持ちもありますけど、まだやれるからやるというのも、最近違うなと」

 貫いてきたカープ愛やこれまでの言葉、このときの表情からは引退の2文字に傾いているように感じられたが、言葉では「(今後は)未定」としか言わなかった。宙を見つめるその視線は、プロ野球選手としてケリを付けられていない自分の着地点を探っているようだった。

関連記事

BACK 1 2 3
#広島東洋カープ
#今村猛

プロ野球の前後の記事

ページトップ