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森保ジャパンを“攻略”したメキシコ五輪代表コーチ(分析担当)が明かす日本の強みと弱み「平均を出したら、日本のほうが上ですが…」 

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飯尾篤史

飯尾篤史Atsushi Iio

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posted2021/10/06 11:00

森保ジャパンを“攻略”したメキシコ五輪代表コーチ(分析担当)が明かす日本の強みと弱み「平均を出したら、日本のほうが上ですが…」<Number Web> photograph by Getty Images

試合後、人目を憚らず大粒の涙を流して悔しさを露わにした久保建英。得点を喜ぶメキシコを背に何を思っていたのだろうか

――メキシコも金メダルを狙っていたのに準決勝でブラジルに敗れてしまい、ショックも大きかったと思います。同じように日本もスペインに敗れて、肉体的にも精神的にもダメージを残して3位決定戦に臨みましたが、メキシコのほうがハツラツとプレーしているように感じました。選手たちにはどのように働きかけたのでしょうか?

西村 試合翌日はスタメン組とサブ組が別々にトレーニングをするんですけど、ブラジル戦後は全員一緒にやって。メッセージとしては「このチームで最後の試合やから一丸となって挑むぞ」と。「このあとフル代表で、このメンバーが同じように揃う可能性はかなり低い」と(笑)。今までに積み上げてきたものや、チームの雰囲気、ずっと頑張ってきたことをメダルとして残して終わろうということです。これまでのチーム作りのプロセスにおいても、準決勝でPK戦で負けて、3位決定戦で勝つというのは経験済みでした(笑)。トゥーロンも、パンアメリカン競技大会もそうだったので。それと同時に相手が日本だったので、グループリーグでの借りを返したいというのもモチベーションになりましたね。

――メキシコ代表は3位決定戦でも非常にインテンシティが高く、よく走っていました。6試合を戦い抜くうえでどんな工夫をされたんですか?

西村 今回、コーチングスタッフを含めてスタッフは12人しか連れて行けなかったんです。何が最優先かといったら、選手のリカバリーだろうという話になって。それを第一に考えてコーチングスタッフ以外のスタッフを編成したところですね。道具係やビデオ係は帯同できなかったので、そういった仕事はみんなで分担しながらやりました。

――真夏の東京で中2日という試合間隔は相当苦しいものだったと思いますが、過密日程や暑熱対策に関しては、どのような取り組みをしていたのでしょうか?

西村 時差や暑熱対策に関しては、思っていたより難しくなかったというのが率直な感想です。というのも、メキシコ人選手はみんなタフなので(笑)。おそらくそれが大前提としてあって、そのうえでメンタリティにすごく働きかけました。暑熱対策も、暑さに苦しむのは僕らだけじゃないというメッセージを送って。例えば、フランスにしても、日本にしても、インタビューで選手が「暑さが」「中2日が」「疲労が」といった話をしていたので、そうした条件をネガティブに捉えないように、選手たちに伝えていました。

――メンタル専門のスタッフはいたのでしょうか?

西村 いなかったです。連れて来られなかったので。メッセージの伝え方に関しては予選の段階から、僕らコーチングスタッフが脳科学の専門家から勉強したりしていました。もちろん、冷たいタオルを用意したり、水分をしっかり補給したりといったこともやって。あと、スペイン人のフィジカルコーチ(アニバル・ゴンサレス)が、日本で1年間のコーチ経験があったのも大きかったですね。

――2018年にリカルド・ロドリゲス監督のもとで、徳島ヴォルティスのフィットネスコーチを務めたそうですね。

西村 彼は日本の気候や夏場の試合の難しさ、それに向けたコンディショニングを知っていましたから。それに1年間、日本人選手を見ていたので、彼が感じる日本人選手の強みと弱みを、フィジカルコーチの視点から伝えてくれたのも大きかったと思います。

「選手に情報を与えすぎないこと」

――日本は17年12月から定期的に海外遠征を重ねてチームを作ってきました。オーバーエイジも今年6月に合流して、周到な準備ができたと思います。一方、メキシコはA代表優先ということで、ぎりぎりまでメンバーが揃わなかったと聞いています。それなのにチームとして日本を上回るパフォーマンスを発揮した。日本とメキシコの差を西村さんはどう感じていますか?

西村 これは秘密ですね……というのは冗談です(笑)。監督をはじめとした僕らコーチングスタッフも代表チームは初めての経験で、それこそ最初のほうはパッと集まって、ちょっと練習して試合しても、まったく思い描いた試合ができないということがずっと続いていて。

――そういった苦労も、やっぱりあるんですね。

西村 そこからずっとトライ&エラーをしつつ、最後に行き着いたのは……選手に情報を与えすぎないこと。情報を与えすぎずに、攻守のベースとなる大事なところは繰り返しトレーニングするっていうところですかね。だから、僕らのプレーモデルをもとに選手を選びつつ、どの情報をどの選手にどれだけ与えるかはすごく気を配っていました。

――そのプレーモデルも、当然クラブチームと比べたらシンプルなものにしたり、自由度を高くしたり、代表チームならではの工夫はありますか?

西村 攻撃、守備ともにそれぞれの選手、ポジションに、ベースとなる動き、ベースとなるポジショニングをしっかり伝えて。そこからは各々の良さを、選手が勝手に出してくれる。逆に「これをやれ」と言ってもやらないこともよくあるので(笑)。ベースの部分だけを強調して、あとは選手の強みを生かせるコンセプトをちょいちょい付け加えていく感じですかね。

――特別なアプローチをしているわけではないんですね。

西村 そうですね。コミュニケーションはかなり取って、映像はすごく見せました。日本戦に向けてトレーニングで落とし込むような時間は、もちろんありません(笑)。賢い選手が多いので、映像を見せながらピンポイントで伝えたら、パッと理解してくれる選手がほとんどですから。ペップ(ジョゼップ・グアルディオラ/マンチェスター・シティ監督)が言うように「勝ちたかったらいい選手を集めないと」っていう(笑)。「いい選手がいたら仕事も楽や」っていう。でも、本大会前に集まったときに、それこそ1回も来たことのない選手もいたり、ちょっとしか来たことのない選手もいたり。そこはコーチングスタッフの挑戦でしたね。彼らをいかにうまく僕らのモデルの中に組み込めるか、選手をいかに説得させられるか。プロセスを経て最後に形にできたな、というのが僕たちの印象です。

【次ページ】 「平均」なら日本が上だった

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