酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「早ければ1年で指名される」「育成でもプロ」ドラフト候補2人が“大学・社会人ではなく独立リーグを選んだ”ワケ
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2021/10/04 17:01
独立リーグ高知の濱将乃介と宮森智志
192cmの150km右腕・宮森智志は社会人を選ばず
偉丈夫の集団である野球チームでもひときわ目立つ、衝立のような大きな体。192cm93kgの宮森智志は、1998年5月28日、広島生まれの右腕投手。
「小学1年から野球をはじめ、中学は部活で野球をしました。中学に入るときにはもう190cmありました。高校は呉商で、エースだった3年生は2回戦で負けました。そして流通経済大に進みました。大学の時にはスカウトの方から“もしかしたら育成で指名するかもしれない”という話がありましたが、指名はありませんでした。リーグ戦では成績を残してなかったので仕方ないかな、と思いました」
それでも大学卒業後は野球を続けたいと思った。社会人に進むことも考えたが、話がなくなり、高知に入団することにした。
「思っていたより、野球に取り組める環境が揃っているなという印象でした。それにレベルが高くて気になる選手も多かったですね」
高知での1年目のシーズンは、16試合11先発57回を投げて5勝2敗、防御率2.96だった。
「チームでは先発の3、4番目です。登板間隔があいたときは、試合感覚をなくさないように救援でも投げました。手ごたえはありましたが、もっといい成績を残せたんじゃないかとも思いました。でも、大学の時は、オープン戦で崩れてリーグ戦では3試合くらいしか投げなかった。制球力に問題があったので、それに比べれば極端に崩れることはなくなったかな、と思います。
球速はマックスで150km/h、大学時代と球速は変わりません。カーブ、スライダー、チェンジアップ、フォークが持ち球ですが、得意なのはスライダーとフォークです」
投手出身の吉田豊彦監督は、宮森についてまるで父親のような口調でこう話した。
「(元ソフトバンク、ヤクルトの)新垣渚に雰囲気が似ている。でもスタミナ不足。8月は7kgも体重が減った。食が細いのが気になる。食べるのが遅いけど、時間かかってもいいからしっかり食べてほしい。おっとりしてのんびり屋なところがあるけど、マイペースであること自体はいいことだと思う」
技術面でも吉田監督は宮森に大きな影響を与えたようだ。
「監督は、自分の持っていない感覚を持っていて、その感覚をしっかり教えてくださるので、いろいろ改善できました。調子が悪いときには、自分はリリースの瞬間にゆるんでしまう癖があったのですが、そこをしっかり指導していただきました。
弱点がはっきり分かったので、試合の中でもリリースなど意識、調整ができるようになりました」
スカウトは独立Lの選手の素質や将来性を見極める
これまで、大きな故障がなかったのもアピールポイントだ。
「スカウトの方と直接話したことはありませんが、来ているという話は聞いたことがあります。プロでは先発でいきたいですね。高すぎる目標ですが、ダルビッシュ有投手や大谷翔平投手を意識したい。
家族も応援してくれていて、何度か試合を見に来てくれました。プロに行けるなら、育成でも構いません。自分のいいところをアピールして、もっと成長していきたいですね」
独立リーグの場合、必ずしもその年に好成績を残しているエースや中心打者がドラフト有力候補というわけではない。スカウトは、素質や将来性を見極める。成績こそ芳しくなくとも、ポテンシャルを評価された選手は指名されるのだ。
昨年、高知から阪神に指名された石井大智は工業高専出身という変わり種だったが、矢野燿大監督に「投げっぷりの良さ」が評価され、一軍でも投げた。果たしてスカウトは、10月11日、2人にどんな評価を示すだろうか? <香川、九州編に続く>