ハマ街ダイアリーBACK NUMBER
もがき苦しむDeNAの“和製スラッガー”候補生「とにかく練習しかない」3年目の伊藤裕季也を支える向上心
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byJIJI PHOTO
posted2021/08/30 17:00
今春のキャンプで守備練習に励む伊藤。2018年のドラフト2位。立正大学では主将を務めた
激しい競争の世界。同じ内野手で後輩の牧秀悟や森敬斗が持ち味を発揮しチームの一員として活躍している。リードオフマンとして着実に階段を昇っている森に、新人として史上初のサイクル安打を達成した牧。今回、同じ一軍のグラウンドに立ったことで伊藤は彼らと接し、なにを感じたのだろう。やはりそこにあったのは“焦り”だろうか。
「いや、焦りに関しては森と牧の活躍に関係なく常にありますね。ただ、うまく言葉にできないんですけど、彼らには僕にはない、いいものが詰まっているなと思ったんですよ。後輩とか関係なしに、いい姿を見せてもらったって感じなんです。けど一方で、森と牧を見て、あらためて自分の良さって何なんだろうって考えさせてもらう時間がすごくあったんですよね」
向上心がある限り
他の選手にはない、伊藤の個性とはなにか? 本人は明言しなかったが、やはりそれは後天的には授かることはない“スラッガー”としての資質でないだろうか。
再び始まったファームでの日々、内野ばかりではなく、外野でも起用されることが多くなってきた。今シーズンも50試合を切り、先が見えてきた。是が非でもチャンスを掴み、一日でも早く再昇格し、チームの力になり、また来季へ繋げなくてはいけない。
この苦しい時期、伊藤に自分自身を支えているものはなにかと尋ねると、迷いのない真っすぐな目で語るのだ。
「たくさんヒットを打って勝利に貢献したいとか、いい守備をしてピッチャーを助けたいといった明確な目標はあるのですが、モチベーションという意味においては、とにかくもっと野球が上手くなりたい、という思いが強いんですよね。もちろん応援してくれる人たちのためにがんばりたいという気持ちも強いけど、やっぱりふと考えたとき、自分自身を支えているのは“向上心”だなって思わずにはいられないんです」
塗炭の苦しみを味わっているにもかかわらず、目線だけは常に上を見つづけている。近い将来、群雄割拠の争いを勝ち抜き、バッターボックスで堂々と振る舞う、スラッガーの姿をぜひ見たいものだ。