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もがき苦しむDeNAの“和製スラッガー”候補生「とにかく練習しかない」3年目の伊藤裕季也を支える向上心
posted2021/08/30 17:00
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph by
JIJI PHOTO
気がつくと、伊藤裕季也はいつも居残り練習をして、自分と向き合っている。
宜野湾キャンプでは、最後までグラウンドに残り守備練習をしている姿をよく見かけた。横浜スタジアムでは試合が終わると室内練習場にこもり、球場を出るのはきまって最後のほうだった。そして先日の横浜DeNAベイスターズの東京ドーム6連戦、試合後、ひとりグラウンドに姿を現し、静謐のなか黙々とスイングをする伊藤の様子は、どこか鬼気迫るものだった。
そのことについて尋ねると、伊藤は「ああ、はい、そうですね……」と、戸惑いながら口ごもった。当然だ。べつに誰かに見せるつもりでそんなことをしているわけではない。ただ、しばし沈黙すると、伊藤は口を開き次のようにつづけた。
「僕自身、まわりの選手とくらべて打てるわけでもないし、守れるわけでもない。なにひとつズバ抜けているものがない。すべてにおいてレベルが低いのはわかっているので、とにかく練習するしかないんです」
大卒3年目の内野手である伊藤はそう謙遜するが、決してそんなことはない。デビューイヤーとなった2年前の8月10日、初スタメンを飾った中日戦での躍動は今でも脳裏に鮮明に残っている。ルーキーの伊藤は、横浜スタジアムの夜空に弧を描く2打席連続ホームランの大活躍で観衆を魅了した。また、この年は21試合の出場ながら、OPS.929(打率.288)という数字を残し、スラッガーとしての片鱗を見せてくれた。雰囲気のあるバッターボックスでの佇まいは、なにかしてくれるのではないかといったスター性を感じさせる。
もがき苦しんだ3年目の前半戦
しかしながら現在、伊藤は呼吸さえままならない泥沼にはまっている。2年目の昨季は5試合に出場し14打数4安打とまったく振るわず、起死回生を狙った今季であったが、ここまでの一軍における成績は3試合に出場し2打数無安打。まだヒットは一本も出ていない。
小学校4年生から始めた野球。出身校である日大三高や立正大でさまざまな経験をしてきたが、「正直、今が一番苦しいですね……」と、伊藤は吐露した。
「前半戦は一軍に一度も上がれず、ファームでもいい結果を残せませんでした」