岩谷にとってはこれで本領発揮といったところだろうが、岩谷のシングルマッチには悲壮感が漂う。やられても、やられても起き上がって来る姿は相手の目には脅威に映るだろう。

　開幕戦では完全KO負けで、立ち上がれず控室におんぶされて戻った。2日目は勝ったが、こっぴどくやられていたので、ファンの声援に応えた後は、ステージから消えると、薄暗い階段の下で崩れ落ちていた。

「大丈夫か」とも思ったが、しばらくすると岩谷はふらっと立ち上がった。

　この女、岩谷麻優、やっぱり怖い。以前、試合中に岩谷がすごい顔をしているのを見た時のことを本人に聞いたことがある。

「それ、鹿島沙希とやっているときでしたか」岩谷はそう言った。心当たりはあったのだろう。

倒れ込む岩谷

何が、岩谷をここまで追い込むのだろうか？

　岩谷の何かにとりつかれたような目を見るとき、筆者は思う。

　何が、岩谷をここまで追い込むのだろうか。

　岩谷はリング上とリングを降りた後は違う、という。ファンの視線から消えると素に戻るのだ、と。しかし、そうとも思えない雰囲気を岩谷は漂わせている。

　もし、それが岩谷の中に潜む日常の中の一部だとしても「ズタズタ、ボロボロ」の自分を歓迎している姿は尋常ではない。だが、それがそこから先の岩谷の気迫というか強さにつながるのだろう。

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