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“キング”内村航平がまさかの落下でも“誰も動じなかった”理由とは? 団体銀メダル獲得の裏で語った「彼らが超えていかなければ」
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byJMPA
posted2021/07/28 11:07
7月24日、一本に絞って臨んだ鉄棒の予選。しかし無情にもバーは手からするりと抜けていった
内村が落下した瞬間は「全員がピリッとした」
予選での内村の鉄棒での落下は、誰もが息をのむほどの衝撃だったが、4人はすぐに気持ちを切り替えていた。
続くゆかの演技で一番手に出た萱は「航平さんの後に僕がゆかだったので、ここで大崩れするわけにいかないと切り替えた。本当に耐えて耐えてつなぐというところが僕自身の気持ちにあったので、いつも通りの演技を目指した」と冷静だった。
谷川は「航平さんなら、お前ら切り替えろよと思っているはず。航平さんのためにも、思いを背負って切り替えようと思った」と振り返った。
最も若い北園は「あらためて全員がピリッとしたし、その後は航平さんに『お前らすげぇな』とずっと言ってもらっていた。本当に応援してくれていると感じた」と話した。
橋本は「航平さん自身、一番調整してきて一番鉄棒に時間をかけてきたが、ここで失敗。でも同じ人間ですから。いくら練習しても結果がイコールになるとは限らない」と心中をおもんぱかるように言った。
内村の“不屈の魂”が継承された先の“最高の演技”
こうして迎えた2日後の団体総合決勝。日本は最初の種目であるゆかで北園と橋本が14・600点、谷川が14・500点と最高の滑り出しを見せ、ミスの出た中国などを上回り首位スタートを切った。
ミスの出やすい種目である2種目のあん馬では萱が安定感抜群の演技で先陣を切り、橋本と北園もスピード感のある旋回で勢いを見せた。
あん馬からスタートし、2種目めのつり輪以降に想定以上の高得点を連発していったROCに総合得点で抜かれたが、その後も自分たちを信じ、自分たちの演技をすることだけに集中。5種目めの平行棒を終えた時点では中国にも抜かれて3位に順位を下げていたが、4人の心は「あきらめない」という思いで一致していた。
北京五輪、ロンドン五輪、リオ五輪で何度も逆転劇を演じてきた内村の不屈の魂が、言葉を必要とすることもなく自然と継承されているようだった。
だからこそ、最後の鉄棒にドラマが待っていた。一番手の萱は着地で弾んだものの14.200点にまとめ、続く北園は14.500点。中国の3人が14点台前半にとどまった時点で日本の2位以上が濃厚になり、最後の演技者である橋本にメダルの色が託された。
首位をいくROCを上回るには、最低でも15点以上の高得点が必要と見られる状況だったが、橋本に臆する様子はまったくない。19歳の新エースは離れ技の連続をしっかり決め、着地を完璧に止めた。計り知れないプレッシャーをものともせず、最高の演技をした橋本を迎え、仲間たちは抱き合って互いを称えた。