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“キング”内村航平がまさかの落下でも“誰も動じなかった”理由とは? 団体銀メダル獲得の裏で語った「彼らが超えていかなければ」
posted2021/07/28 11:07
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
JMPA
平均年齢21.5歳、団体メンバー4人全員が五輪初出場の若き体操ニッポンが、7月26日に有明体操競技場で行なわれた男子団体総合決勝で銀メダルを獲得した。
6大会ぶりに優勝したROC(ロシアオリンピック委員会)との差はわずか0.103点。最後まで息詰まる大激戦の中、キャプテンの萱和磨(24歳)、谷川航(25歳)、橋本大輝(19歳)、北園丈琉(18歳)が全18演技をノーミスでつないで、金メダルに肉薄する銀メダルを手にした。
自国開催という節目の五輪で次代へつながる道を切り開いた4人。その背景には、“キング”こと内村航平の置き土産があった。
「彼らが超えていかなければいけない」
「僕は過去に五輪の団体に3回出て、予選を1位通過したことがない。それを初出場の4人がやったのがすごい。彼らの演技からは気持ちが伝わってきた」
団体総合予選の行われた24日。鉄棒のみに絞って東京五輪の出場切符を手にしていた内村が、予選でまさかの落下となり、自身の東京五輪での戦いを終えた。失意に打ちひしがれ、悔しさが膨らむ一方だった内村がまぶしそうに見つめていたのが、団体メンバーの4人だった。
リオ五輪で補欠という悔しさを味わった萱はキャプテンとしてチームの軸になっていた。萱と同学年の谷川は17年から毎年、日本代表メンバーとして世界で名を売ってきた。19年から新エースの橋本大輝が加わり、今回の東京五輪には最年少の北園が入った。フレッシュな顔触れを思い浮かべるように、内村は言った。
「僕はオリンピックで(男子個人総合)2連覇しているけど、それは過去のこと。彼らが超えていかなければいけない」
内村は4人に心からの期待を寄せる一方で、伝統に縛られることなく、新たなメンバーで新たな物語を紡いでいってほしいという思いも公言してきた。
予選終了の直後にも内村は重ね重ねこう言った。
「僕らも自分たちのためにやって金メダリストになった。彼らも同じだと思う。僕らの意志を継ぐとかじゃなく、あいつらはあいつらの感動のシーンをつくっている最中だと思う」
主役の座を任せられるメンバーたちだからこそ、一歩引くような気遣いを見せた。それは、内村が身をもって見せ続けてきた“戦いの流儀”が既に4人に伝わっていることを確信していたからだろう。ライバルの点数や周りの状況に左右されることなく、何が起きても自分の演技を完遂することに集中するという流儀である。