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《本日決着》「リオよりは強い自分がいる」柔道60kg級、高藤直寿は5年越しのリベンジで日本男子金1号を狙う
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2021/07/24 06:00
20年2月に行われた柔道グランドスラムで優勝を果たした高藤。日本男子メダル第1号の期待がかかる
一度は代表の地位が揺れたこともある。新型コロナウイルスによる大会延期で、内定が維持されるかどうか検討されることになったからだ。
高藤は主張した。
「一度決まった選手と決められなかった選手が試合するのはメンタル面でアンフェア。先に内定をもらったのが不利になるのはおかしい」
積んできた練習とそこで得た手ごたえがあった。代表内定時の言葉が象徴的だ。
「それまでなかった手堅さを手に入れたと思っています。リオよりは強い高藤直寿がいると自信を持って言えます」
リオ後の時間で得た成長があって掴んだ代表だからこそ、意思をはっきりと示した。
従来、高藤の魅力は「誰も真似することができない」とも言われるスタイルにあった。日本代表の井上康生監督が「勝負勘と対応力」と評したように、相手の出方に瞬時に対応する能力に秀でていて、多彩な技を繰り出すことができた。「変幻自在」「抜群の」、そんな言葉とともに語られていたことも、高藤の柔道家としての魅力を示している。
将来性を感じさせる柔道で周囲の期待を早くから集め、世界カデ選手権(16歳以下)、世界ジュニア選手権(19歳以下)、世界選手権すべてを制した初めての選手となった。
リオの屈辱を力に変えて
そんな順調なキャリアをリオの経験に打ち砕かれ、新たに客観的に試合を見る力と、手堅く試合を進める力を磨いた。すべては、東京五輪で金メダルを獲り、リオのリベンジを果たすためだ。
昨年2月以来、久々の大会となった今年4月のアジア・オセアニア選手権で優勝。
「常に実戦に結びつくような稽古をしていた成果が出ました」
と井上監督は評している。
東京五輪までひと月ほどとなった6月下旬、高藤本人も、あらためて自身に備わった力をこう話している。
「(リオのあと)自分をコントロールすることを意識してやってきました。安定感の部分では、この5年間、リオを経験したからこそ強くなることができました」
そして、「泥くさくても、金メダルを獲りたい」という思いが募る。
試合まであとわずか。あのときの涙を、笑顔に代えられるか。その柔道人生に、今までにない輝きを添えることができるか。
勝負のときが迫っている。