もしも、1年の延期がなかったら。これほどのパンデミックに見舞われなければ。

　いくつもの「たら」「れば」を未だに抱く筆者の浅はかな思惑を見透かすかのように、福澤は東京五輪のコートに立つ12名の選手を「最高の選手たち」と手放しで褒める。そして現役大学生で五輪出場を果たす大塚達宣と高橋を、北京五輪の頃の自身と清水に重ねながらも「当時の自分たちと比較しても比にならないほど完成している」と称え、将来性が選考の評価基準としてプラスになるのは当たり前だと何度も繰り返した。

　1時間に及ぶ会見では、多岐に渡る1つ1つの質問に丁寧に真摯に答え続けた。引退を決めた理由や経緯。落選時の心境や家族とのやり取り。海外でプレーする意味だけでなく、日本でプレーすることでも必ず得られることがある、という自身の経験。そしてこれからのキャリアについて。

　最後までスマートに引退会見をまっとうする姿に、報道陣の誰もがリスペクトの気持ちを抱き、オンラインの画面越しに彼の引退を惜しんだ。

　そんな福澤が唯一、涙で言葉を詰まらせたのが、清水に対する思いを述べた時だった。

「オリンピックへの挑戦は終わり。清水との約束である“現地集合”を叶えることができませんでした。（落選を告げた時は）むしろ清水のほうが落ち込んでいて、『一緒にやりたかったな』と。アスリートである以上結果がすべてなので、そこに立てない選手がいるのは当然のこと。オリンピックが終わって、北京の時とはまた違う景色、東京オリンピックで見える世界がどうだったか。終わった後、清水に聞けるのを今は楽しみにしています」

©FIVB

　引退後、福澤はパナソニックで社業に専念する。五輪のワールドワイドパートナーでもある同社で、3年後のパリ五輪に向けても活躍の場を広げていくことだろう。

　これまで誰もが歩めるわけではない道を進んできたように、新たな世界で始まるこれからもきっと色濃く、かけがえのない日々が待っているはずだ。

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