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【引退】35歳福澤達哉、東京五輪の夢叶わずもスマートに去る…“あの福澤が”と周囲が驚く変貌「挑戦したからこそ見える世界だった」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byPanasonic PANTHERS
posted2021/07/15 17:00
引退会見で丁寧に言葉を紡いだ福澤達哉(35歳)。涙が溢れる場面もあったが、次のステージへ向けて希望を感じさせる笑顔を見せた
どんな時でも冷静でクレバーに、敗因も勝因も自らの言葉で述べて来た福澤が、言葉少なに赤い目を隠すようにうつむいていた。
もしかしたらこのまま、バレーボールを辞めてしまうのではないか。それは決してこちらの憶測だけではなく、福澤自身も一度は引退への決意を固めようとしていたという。だが、そこで引き戻したのが清水だった。
「東京まで、もう一度やろうや」
実にシンプルな言葉に突き動かされ、福澤は覚悟を決めた。
「あの福澤が、守備のスペシャリストですよ」
相手よりただ高く跳んで打つだけでなく、飽きるほどの練習を繰り返し、オーバーハンドでのサーブレシーブの習得に励んだ。
その成果は周囲を驚かせるほどだった。特に19年のワールドカップを見れば、福澤のことを“守備型の選手”と認識した人も多かったのではないだろうか。同じアウトサイドヒッターの柳田は、守備に徹する福澤のことをこう語っていた。
「福澤さんの代わりに入っても、同じようにはできない。むしろ、福澤さんが果たしている役割、存在感がコートの中にこびりついているようでした」
柳田も言うように、ロンドン五輪やリオ五輪を目指した頃の福澤と現在の姿は、まるで別人のように見えた。
若かりし頃の福澤はと言えば、完全に“攻撃型”。サーブレシーブで狙われ、相手の思惑通りに崩されることも多かった。そのため近年の福澤が「自分の役割はサーブレシーブ」と守備に徹し、“ベテランの安定感”と称される姿を見るたび、かつて切磋琢磨してきた同世代の選手たちは冗談交じりによく言っていた。
「あの福澤が、守備のスペシャリストですよ。あの頃を見て来た自分らからすれば信じられないけど、苦手なことも克服するために、それだけ一生懸命やったってことだから。すごいですよね。人って、変わるんですよ」