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リターンの名手・錦織圭 3年前のウィンブルドン“過去最高の試合”「本気でやれば優勝候補の相手に勝てた」
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byHiromasa Mano
posted2021/07/01 17:00
ウィンブルドン1回戦で、21歳の“ビックサーバー”アレクセイ・ポピリンに勝利した錦織圭
だから、ビッグサーバーとの対戦では、たとえ勝っても「楽しい試合ではなかった」と振り返ることがあった。とりわけウィンブルドンでは何度もこの言葉を聞かされた。
芝コートではビッグサーバーがもともと優位だ。足もとが滑りやすいため、自身の武器であるフットワークも大きなアドバンテージにならない。さらに、重心を低くしながら敏捷に動く必要があるため、臀部や腰、足首など、もともと弱い部分に故障を起こすこともあった。第12シードで臨んだ13年のウィンブルドンでは、3回戦で第23シードのアンドレアス・セッピに逆転負けを喫した。中盤から重心が浮き、フォアハンドが手打ちになってミスを連発。試合後に、左ひざと右足首の違和感で前日の練習ができなかったことを明かした。
錦織も自画自賛した3年前「芝では過去最高の試合」
だが、経験というのは恐ろしい。18年くらいから「芝のプレーが分かってきた」という言葉が聞かれるようになった。ラリーでの早い展開や、ネットプレー、ショットのバリエーションなどの特徴を生かせるサーフェスでもあると分かってきたのだ。この年のウィンブルドンで初の8強入りを果たし、翌19年もベスト8に残った。
その18年ウィンブルドン、3回戦ではビッグサーバーのニック・キリオスに快勝した。午後7時半ごろにスタートした試合を覚えている方もいるだろう。日没順延も十分ありうる時間帯で「先にリードしないと、という気持ちがあったので、出だしから集中力があった」という錦織。サーブでフリーポイントを重ね、キリオスのサーブをことごとく相手コートに収めた。
当時の筆者の原稿に〈ラファエル・ナダルのように、すべてのポイントがマッチポイントであるかのようにプレーし、所要時間1時間37分で圧倒〉とある。恥ずかしいくらい上っ調子だが、芝でもこんな試合ができるのかと、興奮がさめぬままキーボードをたたいたのだろう。錦織も「本気でやれば優勝候補の相手に勝てた。芝では過去最高の試合」と自画自賛しているから、筆者の興奮ぶりも大目に見てほしい。
芝が大好きかと聞かれれば、いまだにそうとは言い切れないのも確かだ。18年ウィンブルドンの開幕前にはこう話していた。