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女子プロレス団体スターダムはなぜ“世界トップ規模で”成功している? 「プロレスって思い入れで成り立つものですから」
text by
原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2021/06/20 11:00
スターダムの白いベルトのチャンピオン、中野たむ
「満員でないことが当たり前の前提である今」
「増えているというよりも固定ファンが安定してきたのかな、という感じですね。今のこの状況(様々な制限がある状況)では新しいお客さんというのは増えないと思います。今来てくれているのはプロレスファンであったり、選手それぞれのファンであったり。固定ファンの確保という部分で、武道館で開催できるというところまでは来た、という感じです」
——客席を減らして使わなければならないという現在の状況は、逆に大きな会場を使いやすいという面もありますか?
「我々にとってやりやすいですよね。コロナの前だったら満員にならないとやってる意味がなかったですけど、今は半分で当たり前ですし、実際は半分の半分でもわからないかもしれません」
これは観客が受ける印象の違いについてだ。満員の会場が来場者に与える高揚感は大きいが、満員の景色が無いことが当たり前という前提がある今は挑戦しやすい。
——今後、例えば武道館を制限なしのフルサイズで使ったり、あるいは東京ドームであったり、より大きな規模の興行をするようになった時に、いわゆる一般の新規の層というのを取り込む必要性はあるのでしょうか?
「そのあたりはプロレスファンの中だけで一杯になると思いますよ。ただ、現在のブシロード体制になってからプロモーション戦略によって一般層へのスターダムの知名度が大幅にアップしたことも事実ですよね。上場企業のグループに入ったことで更なる高みを目指せると思います」
スターダムは世間への露出を増やすために様々な取り組みを積極的に行っている。YouTubeチャンネルや各種SNSだけでなく、例えば武道館大会にあたって都心のJRの駅に巨大看板を掲出したり、女性限定シートを設置したり、最近では国内有名ヘアサロンのトップスタイリストとのコラボCMを公開したりと、様々な形で露出を試みている。
ただ、プロレスファンだけでも一杯になる、という視点は意外だった。
「色んなところで露出し続けることが大事なんですよ」
その真意を知るには、現在における娯楽のあり方や過去のブームについて知っておく必要がある。
「昔は女子プロレスのファンはいなかった」
「昔(小川さんがプロレスを見るようになった頃:昭和40年代)は女子プロレスのファンっていうのはいなかったんですよ。お客さんはいましたけど。情報もないし、限られたものを見るしかなかった。野球とか相撲とか、ボクシングの世界戦とか。プロレスもその中の上位にあって。今は幅が広くなって多様化して見る人が選べるようになっているので、今の方が難しいと思いますよ」
現在は、娯楽が多様という言葉では足りないほど増えている。しかもすぐその情報にアクセスできるし、手に入れたり体験したりすることができる。限られたものを見るしかない時代ではなく、四六時中自分が好きなものの中だけで過ごしていくことができる。そしてその世界から出る機会があったとしても色んなものに行くチャンスがある。
自分の世界の外に広がる選択肢の中からプロレスを選んでもらい、しかもその中でさらに自分たちのことを選んでもらうというのはとても困難なミッションだ。わざわざ自分の世界の中にないものに対して時間とお金を使うことは相当高いハードルがある。