「教室では目立たないのに、グラウンドに出ると人が変わったようになってね。野球については、ものすごくいちずで、強い思いがひしひしと伝わってくるような生徒でした。たぶん、授業中も野球のことばっかり考えてたんじゃないですかね」 

　当時、都立葛飾野高の監督として指揮を執っていた海洲安希央（かいず・あきお）先生（現・同校野球部責任教師）が振り返る。

「ご両親が熱心な方で、野球部の練習のほかに、野球塾にも通ってました。あの豪快なバッティングフォームは、その野球塾で教わってきたフォームだと思いますね」

　左腕一本でバットをブンブン振り回しながら、相手を威嚇するように打席に入ると、その腕っぷしだけで、ライト前へライナーで持っていった。

　どうするんだ！　その足で走れるのか！　そう思った瞬間、ブライト健太、なんと右足の「ケンケン」で一塁に跳んでいったから、もっと驚いた。

　走るスピードとそんなに違わないように見えた彼のケンケンの勢いは、カンガルーの跳躍のようにも見えた。

「お父さんのDNAもあるんでしょうか。とにかく、バネとガッツはケタ違いでしたね。ウチは都立の中では、グラウンドも広いほう（左翼90m）なんですけど、周囲が住宅地なんで、木のバットでしかバッティング練習させてませんでした。それでも、ぼんぼん越えていって」

　高校通算38本塁打。プロを望めるスラッガーとしての「芽」は、すでに垣間見えていた。

「ドラフト上位指名も考えなきゃいけない選手」

「明日の相手は、慶應さんなので……」

　東京農大オホーツクを7回コールドで破った直後のヒーローインタビュー。

　明日の相手は、これからの試合で決まるのに、ポロッと彼の口からこぼれてしまったミステイク・コメント。

　整いすぎていない魅力。昨年まではほとんど実績を残しておらず、この春、ようやくレギュラーの座を掴んだ新鋭スラッガーの初々しさ。

「慶應の正木とは、すべての要素が違う。高校（慶應高）からエリートコースを歩んで、大舞台で何度も活躍してきた正木の経験値の高さは不動です。確かに、ブライトには急激に出てきた勢いがあるから、今はキラキラ光って見えるけど、この大会の“実戦力”が本物なのかどうか。上位指名も考えなきゃいけない選手だけに、こっちもこれから用心深く見ていかないと…」

　高校球児の香りを残した学生球界トップクラスのスラッガー。

　伸びしろのカタマリみたいな、今、伸びざかりの快男子が、学生球界に現れた。