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王座陥落でも…武藤敬司が“禁断のムーンサルト”の封印を解いたワケ「オレにはオレのノアより長い歴史がある」
posted2021/06/08 17:01
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
王者・武藤敬司は必勝パターンに入っていた。シャイニング・ウィザードからエメラルド・フロウジョン、そして足4の字固めへと向かうはずだった。
だが、エメラルド・フロウジョンが崩れたこともあって、武藤はもう一度丸藤を担ぐとシュミット式の背骨折りを繰り出した。武藤は立ち上がると青コーナーを見た。いったん躊躇したようにも見えたが、意を決したようにコーナーに向かってよじ登った。
「まさか」である。武藤は両足でコーナーを蹴った。2018年3月、両ヒザに人工関節を入れる手術をしたときドクターから禁じられ、それ以来、封印していたムーンサルト・プレスを放ったのだ。
禁断のムーンサルト・プレス。
6月6日、さいたまスーパーアリーナ。「CyberFight Festival 2021」のメインイベントはノアのGHCヘビー級選手権だった。
58歳のGHCヘビー級王者
武藤はこの試合に向かう前にこんなことを言っていた。
「58歳にもなると朝起きても万全なんていうことはないよ。そんな中でどうコンディションよくやれるか。チャンピオンになってからもルーティーンは一緒。食い物も一緒。晩酌もするしね。でも、無意識だけど体重は3、4kg絞れている。タイトルマッチだから20分以上戦うことになるでしょう。そういう体になっている」
GHCヘビー級王者になって4カ月近くが過ぎた。助っ人の立場からノアへの入団を選択した。58歳の男はどっしりと貫禄がある。
「ベルトは団体の象徴だからね。IWGPはIWGPで当時のファンやみんなが注目したベルト、ノアのGHCはGHCでスタッフまで全員が注目するタイトル。オレが火をつけたのかもしれない」