情熱のセカンドキャリアBACK NUMBER
「不器用なレスラーの典型」元IWGPジュニアヘビー級王者・井上亘が、いま会社員として熱い眼差しを向けるものとは
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byYukio Hiraku/AFLO
posted2021/06/06 11:01
2010年、プロレスラーとして活躍していたころの井上亘
満員電車で出社し、パソコンの扱いにもなれた
満員電車に乗って朝に出社し、パソコンの扱いにもなれた。選手インタビューの立ち合いや広報宣伝活動を自分なりに懸命にやっていく。そして興行事業部の仕事も任せられており、選手まわり、控え室まわりを担当。コスチュームや飲料の準備や、控え室に入って対戦カードの掲出や用具の片づけなど何でもやった。ピリピリした空気に包まれるため、元プロレスラーだからこそ気を配らなければならないところは熟知している。会社からの伝達事項などあればレスラーに伝えるのも井上の役目だという。
引退して7年、彼が今、せっせと岩を押し上げているのがプロレスエクササイズである。現役レスラーによるプロレス流のトレーニング指導。コロナ禍でリモートに切り替わっているが、これをもっと大きな活動にしたいと意気込む。その理由は、後輩レスラーたちを考えてのことでもある。
「プロレスラーのセカンドキャリアってなかなか難しいのが現状です。でも体のどこを鍛えればいいか、どうやったらいいか、誰よりも分かっています。プロレスエクササイズが浸透して広がっていけば、セカンドキャリアの選択肢の一つになるかもしれない。ファンの方もただプロレスラーを応援するだけじゃなくて自分も体を鍛えてみる。するともっとプロレスの魅力を知ったりしてもらえるとも思うんですよね。プロレスエクササイズの可能性を広げていきたい。それが今の目標なんです」
熱い眼差しは現役時代と変わらない。
『神々の山嶺』は、今も手元に置いてある。ボロボロになるまで読み込んだため、2冊目だという。
岩が何度転がり落ちようが、悲嘆はいらない。ただただ山頂を目指して押し上げていくだけのこと。そのやり甲斐はある。だってプロレスが大好きだから──。