情熱のセカンドキャリアBACK NUMBER
「不器用なレスラーの典型」元IWGPジュニアヘビー級王者・井上亘が、いま会社員として熱い眼差しを向けるものとは
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byYukio Hiraku/AFLO
posted2021/06/06 11:01
2010年、プロレスラーとして活躍していたころの井上亘
「命をなんだと思っているんだ!」
レスラーとしては大型と言えない180cmで100kg超。真っ向勝負を信条とするだけにスーパーヘビー級との肉弾戦は、掛かる負荷も大きい。
真夏の最強決定戦である「G1クライマックス」にも出場、のちには永田裕志とともに青義軍の一員として奮闘を続けた。同期の柴田勝頼にダメ出しされたこともあった。負けても、罵倒されても、歯を食いしばって重い岩を押し上げていった。
大きな試練が、井上を待ち受けていた。
2009年10月のある地方興行で相手の技を受けて首を負傷してしまい、ホテルに戻ったら痛みが急激に出てきた。翌日に病院で診断を受け、頸椎捻挫と診断された。
「ブロック注射を打てば、試合はできますか?」
そう尋ねると医師は井上をにらみつけるような目で言った。
「あなた、一体、命をなんだと思っているんだ!」
首のケガとの闘いは続く。ダメージは蓄積していき、2013年3月に頸椎椎間板ヘルニア、右変形性肩関節炎と診断され、長期離脱に追い込まれてしまう。
秋の復帰を目指したものの、トレーニング再開までには至らない。いくらリハビリしても右ひじを高く上げられなかった。これではエルボーを打つこともできない。
「トレーニングはできないし、体も筋肉が落ちて細くなる。自分で“よしいける”というところまで回復していきませんでした。これはもう難しいなって」
妻に、引退の決意を告げた
井上は覚悟を決めた。
2008年にベスト・オブ・ザ・スーパージュニアを制した直後、ヘビー級転向とともに発表したのが結婚だった。いつも支えてくれている妻に、引退の決意を告げた。